戻り駅

「はいはい、また今度な」


 誠は私の頭の上に手をのせて軽く撫でると、ぽんぽんと子供のように撫でてきた。


 私はその手を取って強く握り締める。


「どうした?」


 その問いかけに答えることなく、私は家に向かって歩き出したのだった。


 美紗と別れてから私の家までは歩いて一十分ほどの距離だった。


 いつも歩きなれている距離が今日はとても短く感じられた。


 赤い屋根と小泉と書かれた石の表札の目の前まできて、誠は足を止めた。


「じゃあ、また明日な」


 そう言って離されそうになる手をまた強く握り締めてしまった。


 このまま帰したくないなんて、男の人みたいなセリフが浮かんできて喉の奥に押し込めた。そんなことを言ったら誠が困ってしまうとわかっているから、なにも言えない。


 ただうつむいて黙り込んでいると誠が身をかがめて覗き込んできた。


「今日はなんだか様子がおかしいぞ? どうかしたのか?」


 そう聞かれた瞬間すべてを話してしまおうかと思った。


 実はね、私二度も放課後を繰り返しているの。その理由はね誠と美紗を交通事故から守るためなんだよ。


 そう言ってしまえればどれだけ楽だっただろうか。


「あのさ、今日美紗が言ってたよね」


「え?」


「ほら、過去に戻ることのできる駅のこと」