ほんの五分ほどで汽車は駅に止まった。プシューッと大きな息を吐き出して停車するして、自動でドアが開かれる。


 恐る恐る駅に降りて見るとそこには『一時間前駅』と書かれていた。


 ここの看板も随分と古ぼけてほとんど消えかかっている状態だ。


「じゃあ、私たちはこれで」


 ピンク色の精霊が運転席からヒョイッと顔を覗かせたかと思うと、止める間もなく汽車はすぐに発車して行ってしまった。


 ここは本当に一時間前の世界なんだろうか?


 見る限り駅に人影はなく、無人になっているようだし永遠に続いている線路も変化は見られない。


 そして一面に広がっている麦畑も同じ姿のままそこにあり、駅名だけがさっきまでと違っている状態だった。


 不信感は募るばかりだが、ここまで来てしまったのだから仕方がない。私は覚悟を決めて駅から出ることにした。ここで待っていたって、あの汽車がまた来てくれるとも思えないし。


 この先どんなことが待ち受けているのかもわからないけれど、とにかく先へ進まないと。


 誰もいない駅の中を歩き外へ出たその瞬間だった、途端に喧騒が戻ってきて自分の耳がおかしくなったのかと思った。


 立ち止まり、瞬きを繰り返して周囲の景色を確認する。


 コンクリートのロータリーに汽車の展示に派出所。それはいつもの駅の風景だった。


 慌てて振り返って確認すると、最寄り駅の名前が書かれている。


 自分の目をこすって何度確認してみても、それは変わらなかった。


 たださっきまでと違うところといえば学生の姿が見られないことだった。駅へ出入りする人はまばらで、年配の男性が犬の散歩をしている姿が見える。


 まさか!


 ハッと息を飲み、スカートからスマホを取り出して時間を確認した。