戻り駅

 だって、そうじゃなきゃおかしい。


 私はいつもの駅へやってきたはずなんだから。戻り駅は私の前に現れてくれたんだ!


 私は唾を飲み込み、呼吸を整えてから無人駅へと近づいて行った。


 入り口には誰もいなくてそのまま奥のホームへと向かう。


 線路は一本で、遠く水平線まで見通せるように何もない。


 こんな場所に本当に電車なんか来るんだろうか。


 頭上を確認してみても電車が走るときに必要な架線が見当たらない。


 線路の向こうには麦畑が広がっていて黄金色に輝いている。


「ここ、どこ……」


 噂になっているような電車が来る気配もないし、人の気配もない。なにもない空間に線路と駅舎だけが存在している。


 徐々に不安にかられ始めたとき、水平線の向こうから黒い影が動いているような気がして目を凝らした。


 黒い影は線路を真っ直ぐ走ってくるのではなく、右に左に蛇行しているように見える。


 そしてゴマ粒ほどの点だったそれはどんどん大きくなってきて、あっという間に私の目の前まで来ていたのだ。


 ものすごい風圧に飛ばされそうになりながら、身を低くして耐える。


 砂埃が巻き上げられて、ソレが走ってきた後方には竜巻が起こっていた。


 風がやむのを待って上体を起こすと線路の上に蒸気汽車が停車していた。


 それは最寄り駅に展示されているあれによく似ているが、他の蒸気汽車を見たことのない私には違いもわからなかった。