「……え?」

 冗談……じゃないの?

「冗談だよ」

 なんだ、やっぱり冗談か。

「じゃあ、俺こっちだから」

「うん、じゃあ」

 私たちは、別々の方向へと歩いていく。

 



✱ ✱ ✱


「お疲れ、杏奈」

「花霞もお疲れ」

 その日仕事を終えて病院の外に出ると、外は大分大雨だった。

「うわ、すごい雨! やっぱ天気予報当たってたか〜」

「ねー。気をつけてね、杏奈」

「花霞もね。 じゃあまた明後日」

「うん、またね」

 私と杏奈は、再び別々の方向へと歩き出す。

「ご飯、買ってこうかな」

 救命の仕事してると不規則だから、食事の時間もバラバラだ。

「あ、バス来た」

 ちょうど来たバスに乗り込み、自宅を目指す。
この時間のバスは帰宅ラッシュなのか、混み合っている。

 スマホを見ながらバスに乗っていると、男の人に「すみません、隣に座ってもいいですか?」と声をかけられる。

「はい、どうぞ」

 と顔を上げると、その人はなんと……。

「あれ、花霞?」

「え? えっ、先生!?」

 これまた、綾浜先生だった。

「偶然だな、また会ったな」

「は、はい」

 最近よく、綾浜先生と会うな……。本当によく会う。