「家族を守る……責任?」

 医局長はおにぎりの包装紙を破りながら、私に視線を向ける。

「医者は救える命に限界がある。医療にだって、限界はある。 それでももし、家族に何かあったら、俺は絶対に家族を守らなきゃならない。……責任があるんだよ、家族を守るための責任が」
 
 医局長の言葉にハッとさせられ、何も言えなくなる。

「私には……まだ家族はいません。彼氏もいないし、守りたい人も……」
 
 あれ……? 守りたい人……本当にいない?

 私、守りたい人……本当にいないの?

「守りたい人がもしいるなら、しっかり捕まえておけ。……じゃないと、後悔するぞ」

 後悔する……。その言葉にはどんな意味が隠されているのだろう。
 でも、なんか分からないけど……。

「後悔……したくないかも」

「後悔しないためにも、しっかり捕まえておけよ? 志倉にとっての、守りたいって思う人を」
 
 医局長はそう言葉を残し、おにぎりを頬張り始める。

「守りたいと……思う人」

 私の守りたい人は、一体誰なんだろう? そう考えて一番最初に頭に浮かんだのはーーー。

「……綾浜、先生」

 なぜか、綾浜先生だったーーー。