先生の視線に気づいてはいたけど、見ないふりをした。

「……はあっ」

 やってしまった……。私ってば、何してるの!

 はあ……。もうダメだ! 言わないようにしてたのにー……。

「何、ため息付いてるんだ?志倉」

 そこへ現れたのは、医局長の澤木(さわき)さんだ。

「い、医局長……!?」

 い、いつからそこに!?

「志倉、さっきからため息ばっかり付いてるぞ?」

「そ、そうでしたか?」

 そんなため息、付いてたつもりはなかったんだけどな……。

「何かあったのか?」

「い、いえ、別に……そんなことは」

「ため息ばっかり付いてると、幸せが逃げちまうぞ?」

 幸せ、ねえ……。

「あの、医局長……」

「ん?」

「医局長は……今、幸せですか?」

 そう聞くことがいいのかは分からないけど、なんとなく聞いてみたくなる。

「幸せ? んー、そうだなあ。幸せかもしれないな」

「そう、ですか」

 医局長は結婚して子供もいるし、幸せそうに見える。

「でも家族が増えるって、それだけの責任が増えるってことなんだぞ」

「……責任?」

「家族を守る責任だよ」

 医局長の言葉には、本当にハッとさせられる。