「コレット様! ひどい……! 私がレオナルド殿下にダンスの申し込みをしたからって、何もドレスに飲み物をかけることないじゃないですか!」


 目に涙をいっぱいためて、メイ様は私に向かって叫びます。

 違うんですよ。
 私がフロアの端で飲み物を手にお喋りしていたらメイ様が突然近付いて来て、私の持っていたグラスにわざとぶつかったんです。
 それを、あたかも私がメイ様に飲み物をかけたみたいに言うなんて……。
 メイ様が私に近付かないようにアランたちが守ってくれるはずだったのに、それもすり抜けて来たのね。逃げ足が速いです。


「メイ様、大丈夫ですか?」
「わざと私のドレスを汚すなんて本当にひどい……! 以前から授業中に嫌がらせしてきたり、私にバケツで水をかけようとしたり、本当にやることが酷いです!」


 待って。授業中に嫌がらせをしてきたのはメイ様の方だし、バケツで水をかけようとしたのは……あ、それは否定できません。確かにメイ様に水をかけようとしてましたから。

 ……って、そういう問題ではなく!

 大変よ。この夜会には国王陛下も参加なさっているんだから。こんなところを見られたら、みんなに誤解されてしまう……って、フロア全員こっち見てるじゃないの!
 どうしましょう、せっかくの夜会なのに、私のせいで台無しになってしまうわ。


「……コレット、落ち着いて」


 大慌てしている私の両肩にポンと手を置いたのは、レオナルド殿下でした。目の前では、駆け付けたアランがメイ様の手を取り、テラスに連れ出します。


「失礼! 人が多いのでぶつかって飲み物がこぼれたようです。すぐに片付けますので、皆さまは引き続きダンスをお楽しみください」


 殿下が私の腰と手を取って、フロアの中央に連れて行きます。


「堂々としていればいい。ここでフロアからいなくなったら、本当にメイに飲み物をかけたのかと疑われるから。踊ろう」


 私たちが踊り始めると、殿下が言った通りにフロアは何事もなかったように賑わいを取り戻しました。殿下がここぞとばかりに私との距離を詰めてくるのが気になりますが、さすがに今はちょっと突き放せない雰囲気です。


「殿下、ありがとうございます……」
「いや、少し目を離した隙に済まなかった。とりあえず、笑って踊ろう」