……殿下？
　扉だけではなく机でも爪を研ぐ癖があるのですか？ 生徒会室の机に傷がつくと、余分な経費がかかるのでやめてくださいね。監査に引っかかりますよ。


「お友達か……九年婚約していてお友達か……。俺はそろそろ手をつないで歩いたり、キスしたりしたかったんだが……」
「キッ……キキキ…キッ！ 殿下！ そんな破廉恥な言葉を口に出すのはお止めください！ せめて他の言葉に言い換えて頂かないと困ります！」


　学園内の、しかも全校生徒を統べる生徒会室で『キス』だなんて、そんなそんないけません！ 何を言っているのですか、このケダモノめ！


「他の言葉に言い換えるとは？」
「例えば……、そうですね。『お口(くち)とお口(くち)の待ち合わせ』とか」
「なんだかそっちの方がいかがわしくないか？」
「……殿下！ 怒りますよ！ とにかく、お友達からよろしくお願いします。だから今日はお友達同士らしく、ランチをご一緒いたしましょう。お昼に裏庭でお待ちしておりますので！」
「分かった。じゃあ、昼に裏庭で『待ち合わせ』しよう」
「……いやあぁぁぁっ！ 殿下！！！ そういう意味じゃない！」


　あまりの恥ずかしさに、生徒会室から走って逃げました。殿下はあんなに破廉恥なお方でしたか？ 二人きりでお話するなんてやめておけば良かった。急にアレルゲンを大量摂取したので胸が苦しいです。

　教室に戻ってリンゼイに助けを求めたら、


「あらそれは、殿下アレルギーじゃなくて、恋の病ね！」


　なんて言われました。もう、気絶してもよろしいでしょうか。