私が見えていないのかっていうくらいズンズンとこちらに向かってきた殿下。ぶつかると思った瞬間、私の横をすり抜けました。何? フェイント?! やっぱり1on1だったの?

 殿下は私の部屋の棚の上に鉢植えを置くと、こちらに向き直りました。え……っと、鉢植えの設置ありがとうございました。もしかして宅配業者の方でしたか?


「コレット!」
「はいぃぃっ!!」


 あの、殿下、声のボリュームの調整機能付いてます? 割と自分の意思で調整しやすい機能が人間には備わっているのですが、どんだけ下手くそなのでしょう。


「ええぇぇ、あぁぁ、何から話したらいいかな」
「あっ、はい……。今日の話、第何章くらいまでありますかね? とりあえずお座りください。お茶をお持ちしますので」


 いつもは王宮に呼びつける殿下がわざわざ訪問するなんて、絶対何かあるに決まってる。ちょうど呪いのドレスも届いたところだし、もしかして……。夜会当日に早速私を断罪して、婚約破棄するおつもりなの?! 想定よりも早かったから、私なんの覚悟も用意もできていません。

 どうしましょう。さすがに泣きそうです。

 侍女に持ってこさせたお茶を、私がカップに注ぎます。なんだか少し手が震えて、カップがカタカタ音を立てます。こうして殿下と対峙してお話するのも、今日が最後かもしれませんね。


「コレット? 大丈夫?」
「あ、大丈夫ですよ。ちょっとまだ心の準備ができていなかったなって思っただけですから。どうぞお話を続けてください」


 あれ、さっきよりも震えが大きくなって、ドレスをつかむ手が揺れているのが目でみて分かる。これ、殿下にも絶対に気付かれているわ。そんなことを考えていると殿下の手が伸びてきて、私がぎゅっとドレスを握っていた左手を、上からそっと包みます。震度……計ってます?