「ねえ、コレット。あそこを歩いているのは殿下とメイ様じゃない?」


 リンゼイが指す方向を見ると、確かに殿下とメイ様が二人で歩いています。殿下はキラキラモード、メイ様は殿下の腕に手を回していますね。仮にも私という婚約者がありながら、公衆の面前でアレはいけません。

 悪役令嬢の正しい振る舞いとしては、二人の間に割って入って、「婚約者のいる相手に対して馴れ馴れしすぎますわ!」ってキレ散らかすのがよいでしょう。

 でも、なんだかやる気が出ないんです。殿下は私に不幸になって欲しいみたいだし、もうあのまま王太子ルートでもマティアスルートでも、好き放題にしたらいいんじゃないかなって思います。

 ほら、今も殿下とメイ様は私の方をチラチラ見ていますからね。二人で腕を組んで仲良くしているところを、私に見せつけたいのでしょうね。
 お生憎様。私はもう、新たなワクワク人生に向けて一歩を踏み出したのです。貴方たちに構ってる暇はございません。ワクワク令嬢なので。


「コレット、あれは抗議した方がいいんじゃない? 今日はもう授業がないし、もしかしたらお二人でどこかに行くおつもりかもよ」
「うーん、別にそれでもいいかな。私、植木に水をやらないといけないから、生徒会室に行ってくるね! リンゼイ、また明日!」


 二人から目を逸らして、私は生徒会室に向かいます。片思いの相手にはフラれ、婚約者には浮気され。それでもちゃんと、婚約者から渡された植木に律儀に毎日水やりをする私。誰か褒めてくれませんか?

 生徒会室には誰もいませんでした。教室からも少し離れているので、誰かが廊下を通りがかることもない。静かな場所に来るとホッとしますね。
 植木鉢を窓際に移動させて太陽に当てながらボーっとしていると、今一番会いたくない人がやって来ました。


「コレット様!」


 うるさいヤツが来たわよぉっ!