「もう、アイツは変態中の変態。好きな女に水かけて喜ぶ男だから。エリオットだけは本当にやめとけ」


 もう一度言いますね。
 ……はい?
 好きな女に水を……?

 その瞬間、私の記憶の中で様々な出来事が線で繋がりました。

 私が湖で溺れた時にすぐに助けに来てくれたこと。その後屋敷で会った時は全く相手にされなかったこと。今日私がリンゼイに水をかけた時、すぐに駆けつけてリンゼイに声をかけたこと。そして、大判タオルを携帯していたこと!

 しかし一方、リンゼイもそうです。滝行をやってみたいと散々言っていたし、バケツの水がかかった時の恍惚とした表情……! あれは確実に、水に濡らされて喜ぶタイプ!



 もしかして二人は……最高のカップルなの?

 リンゼイは動物セラピーに興味があるとも言っていた。馬が大好きなエリオット様と、どこからどう考えてもお似合いじゃないですか。

 私はベッドの上で思い切り項垂れました。後頭部をバシバシ殴る殿下の手を感じます。そういう時は叩くんじゃなくて、撫でるの!


「殿下。実はそんな事があったので、メイ様とジョージ様の出会いイベントに失敗しました」


 口から出た私の声は、思ったよりも涙声でした。


「ジョージの? そうか。ジョージルートで、最後はお前どうなるんだっけ?」


 ジョージルートでは、ヒロインをイジメる私に殿下が愛想を尽かし、婚約破棄。私が平民に落とされて孤児院で労働するという結末です。私はそのまま殿下に伝えます。


「そうか。それは……削れないな」


 どこかで帳尻を合わそう、と言って殿下は馬車が到着したかどうかを見に行きました。

 私が殿下と婚約破棄の上、平民になるルートが削れないですって?
 殿下はどこまで私をイジメる気?

 ドーナツ買ってきてくれたり保健室に付き添ってくれたり。かと思えばこうやって突き離す。

 私は殿下にとって、一体なんなんでしょうね。エリオット様に失恋したばかりの今、さすがの私もかなり心が痛いです。

 丸椅子の上に、殿下がハンカチを忘れてますね。ちょうどいいです。涙と鼻水を思い切り拭いてやりましょ。