目を覚ますと、そこは学園の保健室。
 どうやら貧血で倒れてしまったようですね。窓から夕日が差しているので、まだ夕方くらいでしょう。
 ベッドの上で体を起こして首を動かし、頭がクラクラしないか確認します。うん、大丈夫。

 その時、シャッと音を立ててカーテンが開きました。

 レオナルド殿下です。あれ、なんだか久しぶりに顔を見た気がします。久しぶりに見た顔は、阿修羅のごとく怒っていますね。


「……口を開けろ」


 口を開けろ? 殿下、セリフ間違えてますよ。そこは、「歯ァ、食いしばれ!」って言うんです。え? 私殴られるの?

(ズボッ)

 ひゃっ! この甘くて柔らかいものは……?


「ホーハフッ(ドーナツ)!」


 殿下にドーナツを口に突っ込まれました。もうちょっと優しい渡し方の方が嬉しかったですけど。


「お前、ちょっと見ない間に痩せ過ぎだろ。その菓子なら好きだろうから食べるかと思って買ってきた」


 倒れた時に、ちゃんとこうして付き添ってくれるところは本当に律儀ですね。殿下は、出会いイベントにも参加できないほど忙しいのかと思ってたんですけど、婚約者としての義務はちゃんと果たしてくれます。

 殿下はベッドの横の丸椅子に座って、ドーナツを食べた私の口を拭きます。殿下、何か物言いたげですね。顔は阿修羅ですが。


「お前さ、そんな痩せるほどエリオットのことが好きだった?」


 バ、バレてるぅ……。
 殿下という婚約者がいながらエリオット様を好きだったこと、爪の先くらいは罪悪感があったのですが、直接殿下から聞かれると罪悪感倍増です。爪の先、二つ分くらいかな。


「……すみません」
「いや、どうせアレだからいいけどさ」


 アレ? アレってなんですか? ジェレミーお兄様の言っていた、エリオット様の少々変わったところの話? 殿下の顔も、いつになく真剣になりました。


「リンゼイにバケツの水かけたんだって? エリオットの目の前で」
「え? そうです……。メイ様にかける予定がちょっと手元が狂っちゃって」
「そりゃダメだ。エリオットはさ、水に濡れてる女を見るのがめちゃめちゃ好きなんだ」


 …………はい?