私がバケツを持って窓に向かって走り始めたその時、


「コレット! 一緒に帰りましょうー!」


 リンゼイが急に横から出てきました。ちょっと! 私今全速力でバケツ持って走っているのに……っ!


(……バシャーン!)


 うわぁっ!! やってしまいました!

 ヒロインにぶっかけるはずのバケツの水を、横から飛び出してきたリンゼイに思い切りかけてしまいました!


「リンゼイ! 大丈夫?! 本当にごめんなさい!」
「……ごめーん、私も急に話しかけたから。滝行の練習になって良かったかも。ふふふ」


 なぜか水に濡れて満面の笑みで喜んでいるリンゼイの顔を、持っていたハンカチで拭きます。体が弱いリンゼイが風邪をひいてしまっては大変ですもの。

 すると、とんでもなく大判のタオルをリンゼイの頭にフワッとかける人影が。水泳の授業でもないのに、普段から大判のタオルを持ち歩いている人なんているかしら? そんな貴方は一体誰なの?

 ……あれっ、 エリオット様?!


「リンゼイ、これを使うといい」


 リンゼイの肩に手をかけて、エリオット様がリンゼイを見つめます。


「エリオット様、ありがとうございます」


 な、なんだか二人、見つめ合っていませんか? 私、そんなにエリオット様と目が合ったこと一回も無いんですけど。なんで?
 唖然として二人を眺めていると、顔を赤くした二人が私の視線に気付いて立ち上がります。


「リンゼイ、少し裏庭で話そうか」
「はい、エリオット様。コレットごめんね、また明日」


 ……え、ちょっと待って。色々聞きたいことあるんだけど、まずあの大判タオルどこから出てきた?

 床に座り込んでいる私の側に、アランが駆け寄ってきます。どうやら、私に色々話しかけているみたい。でもごめんなさい、私ちょっと疲れたみたいで、何も耳に入ってこないの。

 あぁ、もう頭クラクラが限界です。倒れてもよろしいでしょうか。

 私は本当に床に倒れてしまったようです。アランの声、周りの人たちがザワザワと騒ぐ声が聞こえる気がします。左頬に床の冷たさを感じながら、私はそっと目を閉じました。