「リンゼイ! どうしたんだ?」
「お兄様、生物を教えてほしくて来たのだけれど、お邪魔だったかしら……?」


 リンゼイがメイ様を見て言います。自分の兄が可愛らしい女の人を連れていたら、妹としては複雑な気持ちですよね。


「お邪魔だなんて。私はメイ・レーマンです。マティアスに生物を教えてもらっていたの。良ければご一緒にどうぞ。前の席が空いているわ」


 ピンクの髪をさらっとかきあげて、さわやかな笑顔で言うメイ様。今日も可愛らしさ満開ですね。


「あら、ドーナツをくわえたお方! 今日はリボンをちゃんと結べましたのね。さあ、どうぞ」


 私に気付いたメイ様が、椅子を勧めてくれました。『ドーナツをくわえた人』のことは忘れていただいて、名前で呼んでほしいものです。


「あの、私はコレット・リードと申します。ドーナツではありませんのよ」
「コレット、ドーナツって何?」


 リンゼイに指摘されて気が付きました。そういえば、メイ様はこの前からドーナツドーナツ言っていますが、この世界にドーナツはないですよ? メイ様も、前世の記憶を持った転生者ですから仕方ないですけど。


「ドーナツというのは、今街で流行っているスイーツのことです。私がネーミングしたのを、お店の人が採用してくれて」


 メイ様がにっこりと答えます。私も前世の記憶がある人間だということは、まだメイ様にはバレていなさそうです。このまま知らんふりしましょう。


「スイーツの名前なのですね! 聞いたことのないお名前だったので驚きましたわ。オホホホホ」


 私の寸劇に恐れをなしたのか、皆さん静かにお勉強を始めました。でも、こんなにメイ様がマティアスに密着していたら、私たち全く質問すらできません。リンゼイと顔を合わせて、二人してため息をついてしまいました。