「……可愛かったですね」


 おっと、ついつい声に出してしまいました。あのふんわり笑顔は、一度見たら強烈に印象に残ります。明るくて誰からも好かれる方である事も、今日見ていてよく分かりました。


「ああ、可愛かった。すごく」


 あれ? あれれ?
 殿下、まんざらでもないですね。
 いや確かに、すごくお似合いのカップルでした。殿下もキラキラしていましたし。

 殿下は照れてしまったのか、頬杖ついて馬車の外を眺めています。お顔も少し赤いようです。

 私の方はと言うと、やっぱり不安な気持ちが大きくて、段々と気持ちが塞いできました。全ルートの出会いが発生した時に、私の未来は一体どうなるのでしょうか。

 エリオット様と結ばれたいなんて、夢のまた夢でしょうか。

 どうして私は悪役令嬢なんかに転生したのでしょう。

 今日はヒロインの可愛らしさを目の当たりにしてしまったので、心がザワザワします。他人と比べるのは良くないですけど、さすがに今日は自分の容姿や自分の暗い未来を思い浮かべて落ち込みますね。

 悪役令嬢たるもの、この気持ちをヒロインをイジメるパワーに転換していかねばなりません。さあ、私にできるでしょうか。

 いよいよ来月、学園生活のスタートです!