「殿下! 早くーっ! ヒロインが帰ってしまいますよー!」
「いや、もう間に合わないだろ。どうせ来月学園に入学して顔合わせるんだから帳尻合わせとくよ」


 いやいや、財布泥棒を追いかけた後に、一番大事なイベントあるじゃないですか。ムーンライトフラワーの若木を一緒に見つけるんです。
 マティアスに探してもらったけどまだ見つかっていないムーンライトフラワー。もしかして殿下とメイ様が一緒に行動すれば、発見できるかもしれないですし。

 でも殿下は、全然やる気がなさそうです。


「それより、あのヒロインに色々と情報聞いたから教えてやるよ。ほら、帰るぞ!」
「そんなぁ……」


 ヒロインに王太子ルートを選んでもらうために、殿下には頑張って欲しかったなぁ。私が途中に変な登場をしたものだから、殿下は怒ってるんでしょうか。

 帰りの馬車が憂鬱(ゆううつ)です。


「彼女の名前はメイ・ブラウン。渡風亭の主人の娘だが、先日街で体調を崩したご婦人を助けたところ、そのご婦人に気に入られて交流を続けているらしい。そのご婦人が、レーマン伯爵婦人だな」
「よくそんなに聞き出せましたね。それで、そのレーマン伯爵家の養女になるのですね」


 そして来月の入学式で、私たちはヒロインと再会します。入学式の日にヒロインとの出会いイベントがあるのは、マティアス・ベルラント。確か、ヒロインが講堂を探していて間違って図書室に迷い込むんでしたね。
 私は、マティアスとの出会いイベントは起こさないつもりでした。でも、殿下が全イベントをコンプリートするとか言うので、致し方なく見守りです。

 ヒロインにマティアスルートを選択された時には、私は殿下と不仲の夫婦のまま一生を終えることになります。

 ……あ! でも、それなら今と何も変わらないですね?
 エリオット様への想いは断ち切らねばなりませんが、生き残ることだけ(・・・・・・・・)を優先すれば、無くはないルートです。

 メイ様とマティアスの出会いの場面を思い浮かべてみました。ピンクの髪と水色の髪。うーん、ちょっとアニメ感が強すぎですけど、ヒロインの可愛さがあれば何でも許される気がします。