「ねえ、リンゼイ! ルイーズはどうなっちゃったの? どうしてあんなに泣いているの?」
「昨日から、体中に発疹が出てしまってね。ものすごく不機嫌で暴れているのよ。みんな手に負えなくて困ってて……」


 呪いよ、呪いだわ。一歩遅かった。
 どうしたら呪いは解ける? 考えるのよ、コレット。前世の記憶を総動員して。

 ……はっ

 確か、丑の刻参りは他人に見られたら失敗するんじゃなかった?

 例えば私がこの藁人形で誰かを呪っているところを目撃されたりしたら、チャラになったりしない?
 そうと決まれば、行くところは一つね。神殿へ急ぐわよ!


「リンゼイ、後で王宮の侍医を呼ぶわ。それまで何とか耐えて頂戴。私もがんばるから」
「……え? コレット?」


 リンゼイを置いて、私はスペンサー邸を飛び出した。
 外に出ると、既に太陽が傾き始めている。


「アラン、私は今から神殿に行く。アランは一度王宮に戻って、メイにこれを渡してくれない?」
「手紙……いや、渡すのはいいけど、一人で神殿まで行くつもりか? もうすぐ日が暮れるし……」
「大丈夫。ここからなら神殿は近いわ。それより早くそれをメイに渡して。そして、メイを神殿に連れて来て!」
「分かった……じゃあ急いで。暗くならないうちに」


 ごめんね、アラン。王太子妃が一人で馬を飛ばして王都を走り回るなんて、おかしなことをしているのは分かってるわ。
 でも現に、目の前に呪いの犠牲者が出てしまった。このままでは、ルイーズもレオ様も守れなくなってしまう。だから私、久しぶりに体張って頑張ろうと思うの。

 日が暮れるまであと少し。

 どうせあの司祭様は今頃夕食中だろうけど、そんなこと関係ない。神殿に突撃して、御神木代わりの手頃な木をお借りしちゃうわよ!