無事に謁見を終えて、私たちは馬車に乗ります。他の人の目がなくなったところからが、この悪魔の本領発揮です。


「コレット、お前さ」


 ほら見てください。二人になったら、私のことなんてお前呼ばわりです。とりあえず、耳をほじりながら話しかけるのやめていただけます?


「マティアスに何調べさせてんの?」
「ひょっ?!」


 もう本当に怖い、この人。どこから情報入手してるの?


「マヌケな声出すなよ。言っておくけどさ、この件で勝手に動くのやめてくれる? 俺、すっごく楽しみにしてんだよね」
「なにか楽しいことあります?」
「は? 乙女ゲームに決まってるだろ」


 そうですよね。殿下はヒロインの登場をめちゃめちゃ楽しみにしてますよね。でも、私とマティアスが探しているムーンライトフラワーは、殿下とヒロインを始末する……失礼、殿下とヒロインが結ばれる(・・・・)ために探しているんですよ。

 そして、どこから出してきたのか、耳かきを渡されました。この馬車の中で殿下の耳掃除しろって事でしょうか。


「馬車が揺れたら、耳に刺さりますよ」
「俺にケガさせたら、国外追放だな」


 当たり前のように私の膝に頭をドンと乗せて、偉そうに寝転がります。私は使用人でしょうか。いえ、むしろ使用人の方が大切にされている気がしますね。

 ケガをさせないように慎重に、耳を掃除します。ちょっとしたストレス解消に、耳垢を殿下のほっぺたになすりつけてやりました。


「おい。お前、いい度胸だな。」
「殿下のお顔が美しすぎたので、見ていられなくて汚しました」


 フンっと言いながら、悪魔は目をつぶります。このまま寝る気だと思います。頭の重みで膝が死ぬパターンです。

「殿下」
「……んん?」

 くつろぎすぎ。眠りこけてドレスにヨダレを垂らされないように、話しかけて寝かせないようにするんだから!


「どうしてムーンライトフラワーを探しちゃダメなんですか?」


 殿下は寝ぼけながら言います。


「お前な。ゲームに出て来るアイテムを探したいと思うのが人間の本性だろうが。俺の楽しみを取るな」


 いやぁ、意味が分かりませんね。


「私だってアイテム集めたいです」
「ダメ。マティアスに、見つけたら俺に先に渡すように言っておいたから」


 殿下、そんなに欲しいんですね。ムーンライトフラワー。そんなに必死に探さなくても、ヒロインとの出会いイベント起こせば自然と見つかるんじゃないですかね。


 あーあ、それにしても。
 殿下はヒロインと結ばれる気満々のくせに、こうして私を婚約者としてパシリにするの早くやめて欲しいです。パシリとして使い倒して耳掃除までさせた挙句、ヒロインが見つかったら婚約破棄するのでしょう?

 早く解放されたいです。さて、殿下が寝たので私も休憩時間です。お休みなさい。