悪役令嬢を卒業して、これから過ごす未来はレオ様の気持ちを疑うことなく、素直に信じていこうと思っています。
 私が変な妄想をしなくても済むように、レオ様が世界一幸せにしてくれるって言ってくれたから。


「そう言えば、結婚したらコレットを膝に抱っこして、後ろからぎゅーってしたかったんだけど」
「抱っこしてぎゅー……ですか?」


 レオ様が自分の膝の上をポンポンと叩いて楽しそうに待っています。そこに乗れってこと? 一応私、もう二十歳なんですが……


「えっと……では、お言葉に甘えて」


 人の膝に乗るのなんて、子供の時以来です。重くないんでしょうか。
 膝に乗った私の体に後ろから手を回し、レオ様が後ろから私をギューッとして……いやだわ! 首の匂いをスンスンしないでください!
 まだ加齢臭はしてないと思いますけど、大丈夫かしら。

 私の首と肩の間に深く顔を埋めたレオ様は、はあっと震えるような熱いため息を一つ。


「長かった……」
「そうですね、婚約してから十三年も、ずっと大切にしてくれてありがとうございます」
「……というわけで、俺は今日までものすごく頑張ったと思う」
「何をでしょう?」
「コレットが首にリボンを巻いて俺のところに来たのが四年前だろ。そこから今日まで、ものすごい我慢してきたなあ。侍女に足で踏まれても耐えた王太子ってすごいだろ? さあ、始めよう」
「……始めよう……ってもしや? そんな突然キックオフ?!」
「いや、俺は悟った。俺たちには勢いが必要だ。つべこべ言わず即開始! 俺、子供は五人くらい欲しいんだけど」


 なんだか急にやる気を出して迫って来たじゃないの……ちょっと! 顎でベッドの方を指さないでください!

 ……この凶悪王子! 甘い言葉を吐いたと思ったら、結婚したばかりの妻を顎で使うのね。

 そんなギャップに振り回されて、レオ様に惹かれてしまった私もどうかと思うんだけど。

 でも、でもでも……


「私、こんな場面がゲームのエンドなんて嫌だわ! もうちょっと、青空の下とか、お花畑とか、美しい風景に囲まれて爽やかなエピローグを迎えたかったです……!」
「だから、この世界はゲームじゃないって言っただろ!」
「王太子ルートのエンドがまさかの初夜シーンだなんてぇ……!」
「……しつこい!」