いやっ……やめてください! 私は誰がなんと言おうと悪役令嬢なんですよ。『ムーンライト・プリンセス』のゲームの説明をしたはずです。この十三年、ずっと自分は悪役令嬢だと思ってきたんです。ゲームの世界で悲劇的な最期を遂げるはずだった悪役令嬢コレット・リード。それが私です。

 ヒロインであるメイがどのルートも攻略できなかったから、たまたま助かっただけの悪役令嬢……だったはずでしょう?

 レオ様の言葉に混乱する私。


「私がヒロインなんて、そんなことありません。だってレオ様だって、もし目の前にゲームのヒロインが現れたら……」
「メイが現れたけど、別にコレットへの気持ちは変わらなかった」


 ……えっと、そうか。頭が回らなくなってきたわ。

 とっくの昔にヒロインであるメイが現れて、どのルートも攻略できないままに終わったのだったわね。メイが王太子ルートを選ぶように画策したりもしたけれど、結局レオ様はメイじゃなくて私を選んでくれた。


「でも……普通は五カ月も会えなかったら寂しくないのですか? 私は寂しすぎて暇つぶしに絵本を作ったり編み物をしたり、ハーブティーの知識まで極めましたよ! 本当にレオ様が私のことを好きかなんて、あやしいものだわ」
「もちろん寂しかったよ、俺だって。会いに行きたかったのに予定が満載でいけなくて。でも、いくら時間ができたからと言って、夜遅い時間にコレットを王宮に呼び出すのだけは絶対に嫌だった……昔の俺、それでコレットにめちゃくちゃ嫌われてたから」
「ああ……裏口に呼び出されてたパシリ時代のことですね」


 あの頃のことはもう何年も前に水に流したのに、まだ気にしてたんですね。

 私たちの暗黒時代の話ですもの、レオ様自身も思い出したら恥ずかしいわよね。顔を赤くするレオ様を見ていると、私も顔が熱くなってきたわ。両手を自分の頬に当ててみたけど……熱っつ!


「コレット。順番が逆になったけど、今度はちゃんと聞いて」
「……はい」


 即席王太子妃部屋に、しばしの沈黙。
 さっきまで私たちの言い合う声でうるさかったけれど、ここには侍女もいなければ、もちろんBGMもない。

 出来たてほやほやの王太子妃部屋の殺風景な空間に、ただ二人の息づかいだけが響きます。


「……レオナルド・ブランデールは、コレット・リードを愛しています」


 気まずい沈黙を破る愛の言葉に、一瞬面くらう私。レオ様のさっきまでの拗ねた少年みたいな表情はどこかへ消え去り、真剣な眼差しで私を見つめる。