馬車の中に流れる沈黙。腕を組んで目線を前にして、じっと何かを睨みつけているレオ様。


「あの、レオ様……私、本当にプロポーズ聞いていません……」


 うわっふぉぉ! 懐かしの、目からビーム!! 馬車が、馬車が焼けるぅっ!
 でも私、こんなビームに負けない。ちゃんとレオ様に聞かなくっちゃ。


「私のお部屋って何ですか? さっきジョージに仰っていた件」
「さっきも言った通り、お前が悪役令嬢ごっこできないようにするんだ。変な噂が流れるたびに、私は悪役令嬢だから身を引こうって考えるんだろ? もういい加減にしろ」


 ……へ? 答えになってる? 私は今、部屋の準備について質問したんですけど。



「すみません、よく分かりません。それに何だか話を蒸し返してませんか? 私の勘違いについてはさっき許してくれたのでは……?」

「噂を信じた件は、元はと言えば俺も悪かったんだからもういいんだ。だけど、俺のプロポーズまで聞き逃すなんて……それはひどすぎるぞ。いいか、お前は悪役令嬢じゃない。断罪もされない、追放もされない、不幸にもならない! それを今から証明してやる。今すぐ結婚だ! このまま神殿に行って、その場で結婚するから!」

「けっ……結婚?! 今? 王太子ともあろうお方が、こんな急に二人だけで結婚なんておかしいですよ! それに、私まだ心の準備が全くできてないです」

「お前に任せていたら、いつまで経っても心の準備なんて終わらないだろ! もうこんなすれ違いは嫌だ。勝手に身を引くのも困る。これでもかというくらい幸せにしてやる」

「……だって私、さっきまで断罪されるつもり満々だったんですよ? それが急に側妃は間違いだった、今から結婚しますなんて言われても……まずは、ちゃんとプ……プロ……」

「プロポーズだってしただろ……」

「でも、私ちゃんと聞いてないです! 絶対にちゃんと聞きたいんです。全然気持ちが切り替わらないです。この際だから言わせて頂きますけどね、婚約者のことを五ヶ月も放っておくのは本当にどうかしてると思います! これだけ放っておかれて突然結婚だとかプロポーズしただろうとか、いくら王太子様だからと言って横暴だわ!」

「お前も話を蒸し返してるじゃないか。プロポーズするのに俺がどれだけ勇気を出したと……コレットが驚かないように、気持ち悪いとか言われないように気を遣って……まあいい。とにかく、五カ月放っておいた件はいくらでも謝る。本当に済まなかった。でもこっちだって、陛下と母上の仕事まで引き受けて今までの三倍働いてたんだぞ!」

「それならそうと知らせてくれれば良かったんですよ! 私が何かお手伝いできることだって、あったかもしれないじゃないですか。そんなに痩せてしまうまで一人で抱え込むなんて、レオ様だって国王陛下だってパワハラアンポンタンだわ!」

「アンポンタン言うな!」

「いいえ、言わせていただきます。陛下とレオ様に任せておいたら、この国は潰れてしまいますよ! いいです、受けて立ちましょう。今すぐ結婚して、私だって王太子妃として一人前にお仕事できるところを見せて差し上げます!」