「……ディランは、コレットに結婚を申し込んでたぞ」
「なっ……なんだと?! 俺という婚約者がいるのにか?!」
「お前、全然コレットと会えてなかったじゃないか。いくら仕事が忙しかったとは言え、これだけ放置すれば他の男から言い寄られる隙だってできるさ……。あ、そう言えば今、コレットを王宮に連れて来て待たせているんだ。今から会ってくればいいよ。決済書、明日に回せる分は俺が仕分けしとくから」
「……おい、コレットが来ているなら早く言えよ! 決済書、頼む。ありがとう!」


 あまりに急な話だが、五カ月ぶりにコレットに会える!

 心の準備はできていなかったが、プロポーズは今日すべきだろう。忙しすぎてモタモタしていたら、また機会を逸してしまう。

 いや……しかし、五カ月ぶりに会って突然プロポーズなんてされたら、コレットに気持ち悪いと思われないだろうか。

 ……気持ち悪いと思われるだけならまだマシかもしれない。今の俺は痩せて顔色も悪いし、『あなた誰なの?』とか言われるかも。

 コレットとイチャイチャしたいのはいつも俺の方で、コレットは恥ずかしがってイヤイヤするんだから。

 プロポーズ用に甘いセリフを色々と考えていたが、ここはサラっとクールに伝えるのが良さそうだ。コレットが引かないようにサラっとな。ごく自然に会話の中で。

 ディランはコレットに何と言ってプロポーズしたんだろう……先を越しやがって、この野郎。

 ちょうど陛下が公務に復帰して少し時間ができたタイミングだったから、時間が取れて良かった。俺はコレットが待つという部屋に急いで向かう。


「……コレット!」


 しまった、慌ててノックもせずに部屋に入ってしまった。

 うわ……なんだこの可愛さは……! まぶしいっ!
 いや、可愛いというより、すごく大人びて綺麗になった。たった五カ月会えなかっただけなのに。髪の毛も少しのびたのか?
 でも、表情はゼロだな。無《む》だ、無。


「ご無沙汰しています、殿下」


 ……やはりアランが言う通り、喋り方がおかしい。急に『殿下』とか呼んできた。多分コレットの頭の中で、何らかの妄想ステージが開幕している。今は深追いしちゃダメだ。
 妙によそよそしい態度にいたたまれなくなり、とりあえず二人でテーブルに付いてみた。


「その態度は……もしかしてアランから聞いた事を気にしてる?」
「アランから話は聞きましたが、特に気にしておりません」
「……懐妊のことも知っているのか?」
「……はい、存じております」


 ポーラが毎週母上の診察に来ているのを、誰かが目にして噂しているんだろうか。誰だ、情報を漏らしたのは。後からジョージに言って調べさせるか。安定期までは懐妊に関することは内密にと思っていたのだが……今言っても仕方ないな。

 しかしポーラが王宮に通っている噂とアランが毛糸店にいた事だけで、母上の懐妊のことまで察してしまうコレットは、やはり賢いな。うん、王太子妃として完璧だ。

 俺に弟か妹ができる話を直接伝えられなかったことは俺の手落ちだ。
 コレットからしてみれば、自分の家族になる人の懐妊を他人から聞くなんて、自分だけが蚊帳の外のように感じて腹が立つ話だろう。俺から直接言うべきだった。コレットがこんな態度になってしまうのも、致し方ない。

 しかし今回の妄想劇場は厄介だな。笑顔は見せてくれるが、目は全然笑ってないぞコレット。