「でん……か?」
「君、何が目的でそんなことを? もしかして、わざと馬を暴走させて、大好きなエリオットに助けてもらおうとでも思った?」


 ダークな空気の中、殿下の目線がギラギラしてます。キラキラじゃありません。ギラギラです。そして口元ぉっ!悪魔の微笑みっ!


「殿下、私はそんなことは……」
「誤魔化せると思ってる? 僕は仮にも王太子だよ。嘘をついたらどういうことになるか、七歳の子供でも分かるよね?」


 ひいぃぃーっ! 命だけは、命だけはぁーっ!


 という事で、なんとこのブラック王太子に変貌した男から尋問を受け、私は自分の境遇や乙女ゲームのことを洗いざらい話してしまったのでした。


「よく分かったよ。今の話が本当なのかどうか、とっても興味あるなあ。」
「うぅ……。信じるも信じないも殿下にお任せしますので、とにかく許してください」


 前世の記憶を持ってる私なんて、不気味過ぎて側に置いておけないですよね。これで婚約の話も立ち消えるだろうし、話して良かったのかも。

 それにしても、殿下の本性はこっちなんですね。ホワイトな殿下は仮の姿、本当は性根の曲がった意地悪大魔王です。これで辻褄(つじつま)があいました。正統派で人望も厚い王太子殿下が、ゲームの中での私へのお沙汰だけがとんでもなく厳しかったこと。


「君、僕の婚約者候補だったよね?」
「はい、そうです。思う存分断ってください!」


 ブラック王太子の口元が、再び悪魔のような笑みを浮かべています。怖い! とにかく怖い! お母様ぁーっ!助けて!


「ゲームの世界の出来事が実際に起こるのか、すごく楽しみだなあ。まずは忠実に、ゲームの通りに動いていこうよ」
「……と、おっしゃいますと?」
「君が僕の婚約者にならないと始まらないよね! ヒロインが現れるまでは、ちゃんとゲームと同じ環境を整えておかなきゃ。すぐにでも君との婚約を承諾すると返事をするよ。よろしくね、婚約者殿!」
「いやあぁぁぁっ!!」


 よろしくですか。それとも、夜露死苦(よろしく)ですか。天使の仮面をかぶった大魔王ブラック王太子めーーーっ!! 絶対にヒロインとあなたをくっつけてやるー!!