悪阻で寝込んでいた母上の体調も徐々に良くなり、陛下も少しずつだが公務に復帰している。

 誕生日パーティーで、母上の懐妊のことを発表するつもりだ。コレットとの結婚も発表するのかと陛下に聞かれたが、そもそもまだ正式にプロポーズもしていない。

 ……そんな時間が無かったからだ!

 本当は今日にでも結婚したいくらいの気持ちだ。しかし落ち着けよ、俺。まずはプロポーズだろ。

 しかし大量の決済書にサインをしながらプロポーズの言葉を考えると言うハイブリッドな時間は、業務報告にきたアランにぶち壊された。


「……ちょっと待て。なんで事後報告なんだ? コレットは無事なのか?」


 執務室にやって来たアランに、大声で詰め寄る。グランジュール東部のエアトンで、コレットがディラン・エバンスに襲われたというじゃないか。何のためにアランを護衛に付けたんだ! ふざけるな!


「エアトンへの旅行にディラン・エバンスが同行していることに気付いて、そのまま急いで追いかけたから事後報告になった。済まない」
「だから、コレットは無事なのか?!」
「大丈夫だよ。ケガもないし元気でピンピンしている。喋り方がちょっと機械みたいというか……少しおかしくなってるけど」
「そうか……無事なら良かった。喋り方の件は、よくある話だから気にしなくていいと思う。多分コレットの頭の中で、何かの妄想劇場が始まっているだけだ」


 ……それにしても、ディラン・エバンス。

 四年前に失脚したエバンス宰相の一人息子だ。宰相の息子ということで各方面から期待されていたが、学園の成績もパッとせず、確か途中から外国留学したと記憶している。
 同級生にはあの優秀なジェレミー・リードもいたから、ディランはさぞや肩身が狭かっただろう。それで卑屈になってジェレミーの妹であるコレットを狙ったのか。