……あれ? 後ろから馬の蹄の音が聞こえる。もしかして、エリオット様助けに来てくれた?! 九歳なのに?

 よく考えたら九歳の子供に暴れ馬に乗った子供を助けろなんて、負わせる荷が重すぎだわぁ。もう誰でもいいです、大人の人来てください。


「曲がれ! 右だけ引っ張れ!」


 み、右だけを、引っ張ればヨロシイノデスカ。どなたか存じ上げませんがありがとうございます!


「……ふんっ!」


 右だけ手綱を引っ張ってみました。びくともしないです。「もっと強く!」という後ろからの言葉を聞いて、もう一度手綱を引きます。あれ? 少しレイラのスピードが落ちた?


「そのままだ! ゆっくりカーブするから落とされるな!」


 なるほど、まっすぐ走ると暴走するけど、カーブならスピード落ちますね! だんだんゆっくりになって来ました。助かりそうです。
 しばらく走った後、なんとかレイラは止まってくれました。全身に入っていた力が抜けて、ぐったりです。何とか命拾いをしました。


「はぁ……止まった……」


 私の横に、もう一頭の馬が止まりました。涙と鼻水でぐちゃぐちゃの顔と、風でボサボサの頭を、エリオット様には見られたくないです。私はレイラの背中に顔を埋めました。


「……大丈夫? 降りられる?」


 ん? この声は?


「危なかったね。手を貸すから降りてごらん」


 突っ伏した頭を横に向けてそっと覗いてみると、そこにいたのは、


「おっ……王太子殿下っ……?!」