レオ様が側妃を迎えた。
 私との結婚もまだなのに。

 ……いいえ、あのレオ様が、そんなことをするなんて信じられない。そうよ、絶対嘘だと思います。

 私がエリオット様に片思いしていた時だって、変わらずずっと私の事を想い続けてくれたレオ様。たった数か月で簡単に気持ちが変わるような方ではないわ。


「あのさ、その若いご令嬢とやらを、アンタの代わりにパシリに使ってるんじゃない?」
「……パシリ……可能性はゼロではないわね」
「それか、それこそ媚薬を使ってレオを誘惑しちゃったとか」
「……やっぱり……媚薬?」
「それで既成事実を作っちゃったら、もう側妃にするしかなくなった。でもアンタとの結婚もまだだから大っぴらにはできない。こっそり会って愛を育んでいるとか」
「……別の人と愛を育むなんて」


 ベッドに突っ伏して大泣きし始めた私の背中を、メイがバシバシと叩きます。


「仕方ないわよ、男っていうのはそういうもの。一時の快楽におぼれちゃったのね。それにしても毎週ってすごいわよね」
「……うわあぁぁぁぁっ!!」


 一層大きな声で泣きわめく私の横で、メイが耳をふさぎます。


「でもさ、噂を真に受けるのもよくないわよ。王宮に勤めてる仲間がいっぱいいるじゃない。アランにも聞いてみたらどう? 騎士は王族の居住塔の警備もしていると思うわよ。アランならきっと、その女がどこの令嬢なのか知ってるはず」
「うっ……うぇ……アランに……聞くわ……。でも、事実だったら?」
「そうねえ。側妃の一人や二人、見逃してあげたら……」
「……違うわ。きっと私と婚約破棄するおつもりなのよ。絶対そうよ、だって私は悪役令嬢だもの!」


 乙女ゲーム『ムーンライト・プリンセス』で悪役令嬢コレット・リードがたどるはずだった悲劇的運命。一度は回避したけれど、結局逃れられない運命だったんだわ。

 ……それならそれで、私はどうしたいの?

 婚約破棄をすんなり受け入れる?
 それとも、レオ様にすがって許しを乞う?


「とにかく、アランに聞きましょう! それまでは悩んだって無駄。いったん忘れて、自分の好きな事をやるのよ。ほら、自立した女性になるんでしょ?」
「そうね。私に残された期間はあと一か月しかない。婚約破棄されたとしても、ちゃんと自立して一人で生きていけるように、準備をしないといけないわ」


 まだ頭も心も整理できそうにないけれど、できることから準備を始めなければいけません。