「……なにこれ」
「だから、もう読まないで……」


 レオ様はメモをご自分のポケットに入れて、私の手首をつかんだまま真剣な目で言います。


「メイって、あのメイのこと? なんでコレットがメイの書いたメモを持ってるんだ?」


 あ、内容よりもまずはそちらでしたか。少しホッとしました。とりあえず私は、メイが私の侍女になったことをレオ様に説明します。


「は? 断れよ」
「何と言いますか……残念ながら彼女はとてもお仕事が早くて正確で。リード公爵家としてはとても助かっているという皮肉な結果でして……」


 髪を梳かすのも着替えも乱暴なんですけど、一応綺麗に仕上がりますし。


「ふーん。で、このメモの内容は?」
「……レオ様。本当にそれだけは恥ずかし過ぎるから許してください」


 レオ様は私の目をじっと見て無言です。きっとこのまま百秒数える気ね。堪えきれなくなった私は、恥を偲んで真相を話しました。


「メイに、アドバイスをもらったんです……。私がとても奥手だから、レオ様との関係を前に進めるためにはこうした方が良いって」


 私の顔、大丈夫ですか? 顔どころか、指の先まで四十度くらい発熱していませんか? でもね、言うなら今しかないです。


「私、レオ様にお友達から始めましょうなんて言ってしまって、そこからどうしたら良いのか分からなくなってずっと言えなくて。でも、馬車でレオ様が……待ち合わせ……その、キスをしてくれた時とか本当に嬉しかったんです」


「コレット」
「レオ様が私の事をすごく大切にして下さっていること、毎日感じます。口が悪かったりちゃんと言ってくれなかったりしてすれ違うこともあるけど、いつも何気なく私のことを気にしてくれたり、本当は優しいんだなって分かってます。だから、私レオ様の事が大好きなんです!」


 言った! 言ったよぉぉー! メイ、リンゼイ、お兄様! 全グランジュールの人たち、ありがとう!
 ガッツポーズの一つでもしたいけど、何だか周りが騒がしいですね……あれ?


「……コレット。ごめん、こんな事になって」


 ふと気が付いて周りを見ると、花火を見に来ていた人たちが私たちを取り囲んで見ています。子供たちは私たちのすぐ横にしゃがみ込んでニコニコ。


「なっ……!」


 待って。私ったら今、こんな大観衆の目の前で、レオ様に告白しちゃったの? これが噂の公開処刑?!


「殿下、ここは婚約者様にキスの一つでも贈るべきじゃないですかね?」
「殿下! 殿下! お姉ちゃんにチューして!」


 ほらレオ様。夕方になってサングラスも外したから、全然忍べてないじゃないですか。全員に王太子様だとバレてしまってます!


「そうか、俺もそう思う。ここはコレットの気持ちに応えてしっかりとキスしておかなければな」


 そう言ってレオ様は私の爆発しそうな頬に手を添えて、大観衆の前で私に思いっきりキスをしました。

 周囲から歓声が上がります。
 ついでに花火も打ち上がりました。

 レオ様が私の背中に回した手にぐっと力が入り、抱き寄せられます。
 レオ様お願い。とにかく恥ずかしいから、離してぇっ!