「コレット、お待たせ」


 噴水の縁石に座る私の横から、肩にポンと手を置く人。もちろんレオ様です。


「おはようございます、レオ様。今日はどこに行きますか?」
「もちろん食べ歩き。ドーナツ買うだろ?」


 今日は食べ歩きデートのようです。いよいよここから勝負が始まります。メイに言われた通りに、やりますよ。


▼メイの指示その一
『手をつないで、上目遣いでレオ様を見上げる』
 えっ……いきなり難易度高いですね。レオ様から手を差し出されたら、スッと私の手を乗せるだけでいいのですけれど。自ら手をつかむのか。左手にする? それとも右手? あの動いている手をつかまえるのが、まず難しくない?

 歩きながら前後に揺らされているレオ様の手を見ていたら、振り子みたいでちょっと目が回ってきました。


「……コレット? どうした? 気分が悪いのか?」
「はっ、そんなことはないです! 大丈夫です! ちょっとレオ様の左手に……」
「左手?」
「……サングラスを渡そうかなって思って! どうぞ! レオ様、目立つから!」


 ああ、失敗してしまいました。上目遣いどころか、手をつなぐ時点で失敗よ。私が差し出したサングラスをレオ様がつけてくれます。うん、どこからどう見ても海外マフィアですね!


▼メイの指示その二
『食事の時は、わざと口の横に食べ物をくっ付けておく』
 なにこれ? なんのため? 今からドーナツ食べるんだけど、どうやったら口の横にドーナツを固定できるの? ドーナツの串を頬に刺すわけにもいかないし、とりあえずトッピングのクリームだけでも付けておこうかしら。せっかくお化粧してもらったのに汚すの、いやね。

 クリームを付けた間抜けなお顔で、レオ様の方を向いてみます。


「何やってんだ? バカだな」
「……ですよね。私もそう思います」


 レオ様の左手が伸びてきて、ハンカチで口を拭いてくれました。
 メイの指示って、本当にこれで合っているのかしら。攻略対象五人全員からフラれたメイよりも、一瞬でエリオット様を虜にしたリンゼイの意見を聞くべきだったわ。

 次は、指示その三ね。えっと、メモはどこかしら。

▼メイの指示その三
『背中を向けて、うなじを強調すべし』
 なるほど。これなら簡単ね。ベンチに並んで座っているから好都合よ。少し背中を向けて、前かがみになった方がいいかしら。


「コレット……」


 レオ様が気付いたわ! どう? 私のうなじ、見てくれた?