さて、やって来ました。王宮の裏口。

 実はこのあたり、子供の頃にこっそり忍び込んだことが何度もあります。裏口近くに、使用人の人たちが野菜を育てている畑があるんですよね。私も一緒にお野菜の収穫を手伝ったりして、使用人の皆さんと楽しく過ごしていました。

 あれは何年前でしょう。懐かしいですね。

 近くにある使用人の方たちの休憩所の窓から、中をのぞきます。中には男性が一人。気付いたその人が慌てて扉を開けてくれました。


「お嬢! こんな時間にどうなさったのですか?」
「わぁ、あなたはジェラードね、お久しぶり! そして『お嬢』だなんて、その呼び方懐かしいわ。安心して、今日はレオ様に呼び出しくらったんじゃないのよ。私から用事があって、こっそり来たの」
「そうですか。いつも殿下が無理に呼び出しして、こんな遅い時間にもよくいらっしゃってましたからねぇ。中にお通ししますか?」
「いいえ、今はあまり状況がよくなくて。私が王宮の中にいるのが見つかったら大変なことになるわ。レオ様に少し外に出てきていただくのは難しいかしら。渡したいものがあるの。少しの時間で大丈夫よ」


 使用人のジェラードに取り次ぎを頼み、私は野菜畑の近くで待ちます。日中は暑くなってきましたが、夜は過ごしやすいですね。静まり返った王宮の畑に、虫の声も小さく響きます。

 さあ、レオ様がいらっしゃったら、ちゃんと笑顔でお別れを言いましょう。新しい婚約者様と気持ちよく過ごせるように、さわやかに去らなくちゃ! 今までの御礼を伝えて、あとは言葉遣いに気を付けるように言っておきましょうかね。レオ様があんなにガラが悪い凶悪王太子だと知ったら、普通の人は百年の恋も冷めますよ。

 メイ様は、どんな王太子妃になるのでしょう。今までのメイ様を見ていると、ずる賢いところと狡猾なところは王太子妃のスキルとして生かせそうですね。ボケボケの私と違って、しっかりとレオ様を支えてくれる存在になってほしいです。
 レオ様はどうしても真面目過ぎて突っ走るところがありますし、熱くなりすぎると簡単に引き返せない人ですから。
 メイ様が冷静にツッコミを入れて、レオ様を上手く導いてくれるとよいと思います。


「コレット! こんな時間にどうした?!」


 レオ様が来てくれました。ジェラード、取り次いでくれてありがとう。やっと会えました。