宰相様は、余裕のある笑みを浮かべてその場を立ち上がりました。一礼をして、先にサロンから出て行きます。
 国王陛下やレオ様の名誉を守るため、リード公爵家の方から婚約破棄を申し出ろとのことです。

 お父様になんて言おう。
 お兄様には、何と報告しよう。
 婚約破棄の手続きってどうしたらいいのかしら。


 色んな悲しい感情にフタをして、今後の事務的作業を想像してみます。

 大丈夫よ、コレット。初めから分かっていたじゃない。
 七歳で日本人である前世を思い出してから、私はずっとレオ様との婚約破棄を想像しながら生きてきました。もっと早く自分の気持ちに気付いて、レオ様に好きですと伝えておけば、何かが違ったのでしょうか。

 でも、今更過去を変えることはできません。
 その上、この『ムーンライト・プリンセス』の世界では、未来もまた、変えることができないようです。

 開いたままのサロンの扉近くで控えている侍女の方の視線が痛くて、私は涙を堪えながら逃げるように外に出ました。