レオ様の心変わりはまだしも、王家と公爵家の婚約破棄がそう簡単に進むわけがありません。レオ様に会えないのなら、いつも私を追い返す宰相に直接確認してみよう。そう思った私は、王宮に戻って宰相に会いました。

 会わなければ良かったと、あとから後悔したのだけど。


「コレット・リード公爵令嬢。貴女はご自分が、王太子殿下の婚約者としてふさわしいと思っていらっしゃるのですか?」
「宰相様。例え私が殿下の婚約者としてふさわしくてもふさわしくなくても、八年も前に交わした正式な婚約です。簡単に破棄できるものではありませんよね」
「婚約を破棄するなどと、陛下や殿下が仰いましたか?」
「いいえ、直接お話ができないから、宰相様に確認しに参ったのです。新しい婚約者の候補の方がいらっしゃるという噂を聞いて……」
「貴女は、国王陛下や王太子殿下の方から婚約破棄を言い渡せ、と言っているのですか?」
「どういうことでしょう?」


 人払いをされた王宮のサロンには、私と宰相だけが向かい合って座っています。
 宰相は私の質問に眉を上げ、一息ついてから言いました。


「婚約破棄を言い渡したとなれば、いくら貴女の方に非があったとしても、多少なりとも王家の名誉に傷がつくと思いませんか? 未来の王太子妃として教育を受けて来た貴女なら、王家の名誉を守ることがどれだけ大切か、ご理解頂いているものと思っていましたが」
「……それはつまり、リード公爵家の方から殿下との婚約破棄を申し出よと。そういうことですか?」
「ええ、貴女が王太子殿下の婚約者としてふさわしくないから婚約を破棄したいと仰るなら、そのように陛下にお伝えしますよ。こうして何度来て頂いても、王太子殿下に会うことが叶わない。この状況から察して頂き、懸命なご判断をお願いします」