せっかく攻略対象の全ルートを潰して、レオ様とも向き合って。
 これから二人でゼロから百まで階段を少しずつ登っていこうかという今になって、婚約破棄の四文字がチラつく状況になってしまいました。

 元々私は、ヒロインが王太子ルートを選ぶように望んでいたはず。それなのに、いざこうして婚約破棄が現実のものになると、急に不安になって落ち込んで。本当に私って都合がいい最低の女ですね。

 仮にもレオ様の婚約者という立場にありながらエリオット様に片思いしたり、こともあろうかそれをレオ様に知られてしまったり。
 挙句の果てに、レオ様が私のことを好きだと言ってくれたのに「お友達から始めましょう」だなんて。

 私はこれまで、レオ様に対してずっと不誠実な態度で接してきました。

 乗っていた馬が暴走して助けてもらった時も、私を悲惨な結末から救うために東奔西走してくれていた時も。貧血で倒れたときも、メイ様に罠にはめられたときも、いつだってレオ様は私のことを助けてくれた。
 本当は私だって、自分の気持ちに気付いていたのに、気付かないフリをして逃げてたんです。馬車の中でキスをされて、やっと確信しました。

 私は、レオ様の事が好きです。

 子供の頃からずっとレオ様と一緒に過ごしてきました。怖さと優しさが入り混じったレオ様に振り回されるのも、今考えると楽しかった。キラキラと澄ました顔のレオ様よりも、意地悪な顔でちょっかい出してくるレオ様の方が好きだった。子供みたいに友人とケンカしながらも、ちゃんとみんなから信頼されてるレオ様を尊敬した。

 突然のキスも嫌じゃなかった。むしろドキドキして舞い上がってた。

 今更だけど、レオ様にきちんと謝ろう。私がちゃんとレオ様への気持ちに気付いていなくて、色々と誤解させてしまってごめんなさいと言おう。


「決めた!」
「うわあぁっ! コレット、突然大声でどうした?!」


 あ、忘れてた。
 まだマティアスが私の部屋にいましたね。


「ううん、騒いでごめんなさいね。私、レオ様に謝ることにするわ。私が頼りなくてフラフラしているから、ヒロインに付け込まれるのよね。協力してくれたマティアスやみんなのためにも、ちゃんとレオ様に気持ちを伝える」
「コレット、もしかして知らないの?」
「……ん? 何を?」


 意味深な言い方をして、マティアスは黙り込んでしまいました。目がキョロキョロと泳いで、最後に小さくため息をつきます。


「なに? 気になるわ」
「いや、ごめん。知らないのならいいんだ。僕が言うことでもないし」
「……マティアス! すごく気になる言い方をしないで。何なの? レオ様のこと? 私、また何かしでかしちゃってる?」


 必死でマティアスを問い詰めたけれど、結局彼は何も言わずに帰って行きました。私はモヤモヤした晴れない気持ちのままなかなか眠れず、ムーンライトフラワーのつぼみをずっと眺めていました。