「コレット、取り込み中だったようでごめん。まさか直接コレットの部屋に通されるとは……」
「お兄様のスピード感は、ちょっと独特なところがあるから……。とりあえず、どうぞ座って」


 お兄様って、一体私のことなんだと思っているのかしら。一応私、未婚のレディなんですが。今日はさすがに侍女も一緒にいてくれるようだから、マティアスと部屋に二人きりなんてことにはなっていないけれど。


「コレット。レオからムーンライトフラワーの鉢を渡されたと思うんだけど、それの様子を見に来たんだ」
「ムーンライトフラワー? ああ、あそこの棚に置いてあるわ。そう言えばこのお花、マティアスが見つけてくれたのよね。ちょうどつぼみが付いたところなのよ」
「え? もう?」


 ムーンライトフラワーは、夏至の日の夜に一日だけ咲く一夜花。これからどんどんつぼみが大きくなっていくのかもしれませんね。


「そうか。僕もすごくこの花に興味があってね。詳しく研究したいと思っているんだけど、この鉢を借りることってできるかな?」
「この鉢を? どうかしら……レオ様がこの鉢にやけに拘っているから、私の部屋から出すと怒ると思うの」


 間違いないです。必死の形相で私の部屋にこの鉢をセッティングしに来ましたからね。マティアスに鉢を渡したなんて知られたら、きっと私はまた怒られるでしょう。
 陛下からも怒られ、レオ様からも怒られ……。
 王家の皆様からこんなに嫌われる王太子妃候補って、この世界を探しても私だけだと思いますよ。


「そうか、残念。ところでコレット、何だか顔が暗いけど大丈夫? 」
「やっぱりそうかしら? 私がメイ様に嫌がらせをしているっていう噂のせいで、陛下に怒られちゃって」
「陛下に怒られただって? それはマズイな」
「ええ。レオ様の婚約者として大分お恥ずかしい状況だと言うのは、自分でも分かっているわ」


 お恥ずかしい(・・・・・・)で済んだら、警察は要らんですよ。国王陛下ははっきり言いました。「この婚約も見直さなければならない」って。