『私……っ、死ぬまでに頑張りたい。自分の本当の気持ちと、向き合いたい……』
 駐車場で泣いていた白石が、ふと頭をよぎる。
 白石のそばにいたのは橋田たちだけだったから、恐らく二人に何かを言われて、感情が爆発してしまったんだろう。
 変えたいと思っているのが本心なら、今の白石は無理をしている。
 でも、俺にはどうすることもできない。
 人の人間関係に口出しをすると、大概ややこしいことになることを知っている。
 頭では分かっているけれど、困ったように笑う白石を見ると、胸の一部がギュッと苦しくなった。

 放課後。修学旅行から帰ってきたら、すぐに期末考査が近づいていた。
 テスト十日前になると、全ての部活動が休止となるため、皆の帰宅時間が同じになる。
「赤沢ー、一緒に帰ろうぜ。ていうか、勉強教えて」
 修学旅行が終わってからというものの、秦野はやたらと俺にかまってくる。
 俺と違って秦野はほかにもたくさん友人がいるはずなのに、どうしてこんなに絡んでくるのか不思議だ。
 放っといても話しかけてくれる秦野のことは、特別好きでもないし、苦手でもない。なので、言われるがままに一緒に行動している。
 教室を出ようとすると、たまたま白石たちグループと鉢合わせた。
「おっ、白石さんも皆で勉強会? あれ、須藤さんは?」
「あ、うん。フードコートでやろうかなって。天音は家の用があるってすぐ帰っちゃった」
「そうだったんだー。あ、フードコートと言えばさ、あそこのクレープ食べた? 最近できた店なんだけど……」
 秦野が空気を全く読まずにべらべら話しているせいで、謎の五人で校門まで向かうことになってしまった。
 橋田たちは明らかに鬱陶しそうにしているし、実際小声で文句を言っている。
 校門を出たら無理やり秦野を自転車置き場に連れて、すぐに別れよう。
 そんなことを思いながら、俺はスニーカーに足を通した。
 しかし、校舎を出た途端、はるか頭上から何か変な音が聞こえた気がした。
「え……」
 それに気づいたのは俺だけで、真上を見上げると、校舎の壁にかかっていた、野球部の大会記録が大きく記された看板が、今にも剝がれ落ちそうになっていることに気づく。
 昨日の台風のせいで、接着面が破損してしまったのだろうか。
――なんて考えている暇もなく、その看板は白石と秦野にめがけて落ちてきた。
「白石! 秦野!」