どうしよう。このままでは“夫婦契約”というのを結ばれてしまう。
 危険から身を守ることを考えるならきっとそうするべきなのだ。璃世さえ一瞬我慢すれば弟のことも守れる。

 だけど、こんなに簡単にファーストキスを――しかも好きでもない相手と済ませてしまうことに抵抗がある。璃世にだって、人並みに恋愛や結婚に対する憧れがあるのだ。

 頭の中で葛藤をくり返しているうちに、いつの間にか目の前の虹彩の色が変わっていた。まるで何万年もかけて宝石になった樹脂のように、飴色の美しい輝きにくぎ付けになる。

 気づいたときには、そこに映りこんでいる自分の顔が目前にあった。

「安心しろ。このうえなく大事にしてやる」

 壮絶な色香にぞくりとする。身じろぎどころか呼吸すら忘れる。

 あと少しで唇が触れる――そのとき。

「待って!」

 叫びながら千里の顔を両手で押さえた。