「しかもよりにもよってあんな場所に……ヘビの檻の中に放り込まれたカエルみたいなものだぞ」
「あんな場所って……」

 つぶやくと、「御所だ」と短く返ってきた。

「御所って……もしかして、京都御所のこと?」
「ああそうだ。おまえがいたのは京都の中でも一二を争う魑魅魍魎のたまり場だぞ」

 いくら璃世が京都のことに詳しくないといっても、京都御所くらいはわかる。長い間天皇の住まいであり、古くは(まつりごと)の中心だった場所だ。

 どうしてそんなところにあんなバケモノが。

「政治の世界なんて、あやかし顔負けの恐ろしい人間がわんさかといる。それこそ伏魔殿だ」

 権力が集まる場所は一見華やかに見えるが、実際は悲喜こもごも。様々な思惑や陰謀がうずまき、悲しみや怒り、恨みといった負の感情が絶えず存在する。そういう場所には魑魅魍魎が集まりやすいのだと千里は言った。

 それでも天皇の住まいや政治の場として機能していた頃には、それなりにまともな結界が張られていたが、あるじ不在になった今ではそれもない。
 千年以上かけて堆積した負の気は消えることはなく、あやかしにとってはまるで楽園。時々璃世のように迷い込んでくる人間がその餌食になる。

 それを聞いた璃世は、自分はそんな恐ろしい場所をひとりでさ迷っていたのかと改めて恐ろしくなった。

 千里が来なければいったいどうなっていたんだろう――なんて、考えただけで背筋が寒くなる。