「いやー、1日よく走ったねぇ」

 途中のスーパーで調達してきた夕食をモーテルの部屋に持ち込みテーブルに並べて座る。

「なんか、前にもこういうシチュエーションあったね」

「まぁ、基本はツインで部屋取るもんなぁ。同じようにはなるだろう」

 どちらの時も、俺と由実がお互いをさらけ出したときでもある。彼女の中にも同じ意識が流れているのだろう。

「祐樹君……」

 食事を終えて、それぞれシャワーも浴びた。パジャマに着替えて、二人で同じベッドに座る。

「成田空港での約束……、覚えれくれてる……?」

「あのさぁ、俺が必死で押さえてるの知ってるのかぁ?」

 一瞬の沈黙のあと、見合わせた顔がプッと吹き出す。空気が和んで、俺は由実を頭から抱きしめた。

「俺、どうなるか知らないぞ?」

「分かってる。一昨日、祐樹君は私を貰ってくれるって。だから……」

「もちろん。俺だけの由実になってほしい。もう誰にも渡さないぞ」

「うん。だからね……、みんな祐樹君に渡したい……」

 天井の明かりを消して、枕元の1つだけを残す。

 外に面する窓のカーテンをきっちり閉めた。立木を挟んで幹線道路沿いに面しているから、外の廊下は常に車の音がしているし、その分部屋の防音もいい。

 それに、俺たちの会話は当然日本語だ。日本からの旅行者でこういう宿を使うのはレアケースだろうから、話の内容を聞かれる心配もない。

「ちょっと待って」

 由実は自分のキャリーからバスタオルを2枚取り出して、シーツの上に広げた。

「汚したら申し訳ないし」

「落ち着いてるのか緊張してるのか分からねぇ」

 二人で笑って、由実は俺の腕の間に入ってきた。

「由実……」

 もう言葉は要らなかった。

 唇の触れあいだけではすぐに物足りなくなる。お互いの存在を求め合った。

「祐樹君……、寂しかったよ。でも、絶対に迎えに来てくれるって」

「ちょっと早かったか?」

「ううん。私も決心できたし、身体ももう、大丈夫だって」

 俺は彼女のうなずきを確認して、パジャマのボタンに手をかける。4つのボタンはすぐに外れた。

「由実……、見違えったな。よくここまで頑張って……」

 俺の方が逆に声を詰まらせる。

 見事だった。肋骨が浮かんでいた胸元は、しっかりと筋肉が戻り、数ヶ月前の光景が嘘のようだった。

 腹部も適度な脂肪がついて、女性らしい柔らかさのボディラインを取り戻している。ウエストも痩せすぎずに、健康的なくびれまで取り戻していた。

「難しかったけど……、祐樹君の隣りに立たせてもらうんだもん。食べて、お休みの日は歩いたり。ほめてもらえて嬉しい」

 夜用のブラジャーも日本の通販で購入して使っているらしい。そこまで急いで治したいという彼女の意思の表れだと思うことにしていた。


 数ヶ月前に対面していたのは、やはり本調子ではなかったのだろう。

 柔らかなラインの膨らみは、やはり想像どおりの豊さが山裾まで回復していて、ほんのり色づいた輪の中心には、全体の大きさから比べれば小さな桜色の蕾が一生懸命に存在を主張していた。

「ゆ、祐樹君……、今日は……積極的なんだね」

「だって、治ったら抱くって約束だったしな?」

「うん……、私ね……、いますごく幸せ……」

 1回の呼吸が大きくなっていて、声も上ずっている。

「少し落ち着こう。由実が壊れちゃいそうだ」

「大丈夫……。このくらいじゃまだまだだよ」

「どれだけ鍛えられてるんだよ」

 先日の告白を考えれば、最後の行為がなかっただけで、以前の彼氏ともそれなりの性交渉はあったはず。詳しく聞く気もなかったけれど、俺よりもその意味では経験値も高いように思えた。

「俺だって、由実に自慢できるような身体じゃないぜ?」

「男の子だって、女の子の顔とかおっぱいの大きさで好き嫌い言うじゃない。それと同じ。私は祐樹君の雰囲気が好きなの。あったかくていつも心配してくれて、ずっと見ていてくれたんだもん……」

 由実は俺の顔をじっと見つめてくれた。