「そんなことがあったんだ。他の子で知っていたのいる?」

「たぶんいないと思う。ただ、ストーリー上でうちはテストで99点だった方だろう?」

「うんそうだったよ。でもそれでOKって設定だったよね。100点じゃなきゃダメってので、1点差のことを突っ込まれた愛ちゃんがブチ切れで。本番が一番面白かったなぁ」

 あくまで予想だけど、そのストーリーの性格からして俺たちの家庭設定の方がほのぼのして見えたのかもしれない。

「きっと、私のお願いが祐樹君に通じたんだね」

「そうかもしれないな」

 この校舎には本当に言い切れない思い出がある。

 今となっては楽しい思い出が先行するけど、現地校での生活に疲れ切っていた時期もあった。そんな思いを共有できた数少ない場所だ。

「こら部外者!」

「えっ?」

 後ろからの声に振り向くと、自分たちと同じくらいの男性が仁王立ちだ。

「私たち、卒業生……ってもぉ! 金井君!?」

「おい波江、また佐藤泣かしてないだろうな?」

 金井(はやて)、彼もまた俺や由実たちと同じ教室にいたメンバーである。

「もう大丈夫。泣いてないよ。うーん、嬉し泣きは止まらないけど」

 彼も由実と同じで、こちらでの進路を選んだ派だという。

「波江はいつまでいるんだ?」

「来週の土曜の朝出発って感じかな」

「そうか、んじゃ金曜はやめておくか。木曜の夜なんか予定あるか?」

 彼は手帳をめくって聞いた。

「大丈夫だよ。祐樹君は?」

「俺に予定なんかあるわけないだろ?」

 そんな会話を聞いた金井は表情も穏やかになった。

「じゃぁ、木曜日の夜に来てくれ。住所はここだ」

 メモ紙にさらさらっと住所を書いて由実に渡す。

「えぇ、結構近くなんだね。うん、大体分かるからいいよ」

「俺も二人に知らせなきゃならないことがあるから、じゃ木曜日な」

 金井は当時と変わらなく、俺たちに手を振って自分の車の方に歩いていった。




 懐かしい時間を味わった後、由実はそこから1時間ほどの俺が当時住んでいた町へ車を進めてくれた。

「懐かしいでしょ?」

「日本だったら、10年も経つとすっかり変わってもおかしくないのにな」

 当時の現地校や、スーパーなどを回った時に、由実はドリンクなどを買い込んでいた。

「明日から、ちょっとした旅行だからね」

「そうだっけ?」

「あの時、オーランドに二人で行くって言ってたでしょ?」

「うん。まさか車でか?」

 由実の住むマーフリースボロから、フロリダ州のオーランドまでは約600マイル、俺らの感覚で大ざっぱに計算しても960キロにもなる。それで国際免許を持ってきてほしいと言われたのか。

 何度かの出張で運転したこともある。こっちのインターステート・ハイウェイならば広くて走りやすいし、横に由実という最高のナビゲーターも乗っている。

 交代しながらなら、逆にのんびりしていて、いいアイディアかもしれなかった。話すことならいくらでもある。

 それなら、一度帰って準備をして休もうということになり、その道中て彼女の車を運転させてもらった。普段は一人用の乗用車なので、大きくはないが逆にキビキビ動ける。

 スタンドでガソリンも満タンにして、タイヤなどの簡単な点検も済ませた。アメリカには日本と違って車検というシステムがないから、自分で全て管理しなければならない。

 幸いにして、由実も俺もガソリンスタンドでのバイト経験もある。女性一人にしてはきちんと整備されていたのもそういうところにあったのかもしれない。

 昨日の夜に将来を約束しあった俺たち。それまでは必死にそばで甘えているようだった由実も、この夜は安心したようにキス1回で翌朝に備えることになった。