「ねぇ、待って、黒羽くん!」


「……着いてくるな」




人気のない廊下を小走りに追いかけると、黒羽くんは少し振り返ってわたしを見てから、そう言う。

その後、また前を見て歩き出してしまった彼に急いで駆け寄り、わたしは学ランに包まれた右腕を掴んだ。




「お願い、待って」


「……」




ピタリと足を止めた黒羽くんは、口を閉ざしてわたしを見る。

昨日とさっき、瞳の奥に見えた気がする“心”はすっかり見えなくなってしまって、今は冷たさすら感じる静かな瞳に戻っていた。




「あのね、昨日のことなら、ちゃんと忘れるよ。黒羽くんとは今日が初めまして。だから、教室に戻ろう?」


「……1人で戻れ」


「わたしが1人で戻ったら、黒羽くんは? せっかく学校に来たのに、授業も受けられないままどこか行っちゃうの?」