二枚目俳優と三連休

「そうなんです。父も私も読書が好きで。父と本の貸し借りをしていたんで、お互い読んだ本の感想を言うのがコミュニケーションだったんです。だから…映画を見る方向にはいかなかったというか…このDVDを見る機械もウチにはなくて、その」
「本がコミュニケーションツールか、ええ話やな」
 低い声で、うん、と高柳が頷いた。が、次の瞬間、しかし!と声を荒げた。
「映画を見ないなんてなあ!人生の半分以上を損、してるで!!」
 今までで、一番声を張られて、さなえは正直、びくっとした。
「君、イタリア語勉強してるやん。それやったら、イタリア映画、観らなあかんやろ」
「は、はあ…」
「はあ、ちゃう。イタリア映画観てないイタリア語講師なんて、俺は認めへん」
 ドスの効いた声で言われた。さらにさなえはびくびくしてしまう。
 さっ、と高柳は、ポケットからスマホを取り出し、電話をかけた。
「あ、高柳っす。今からええですか?はい、はい…すぐ、行きますんで」
 電話を切ると、高柳は、さなえに向き直った。
「と、いうわけでや、伊藤さん、ちょっと一緒に行こか」
「へっ?」
 行こか、と言われても、さなえは風呂上りのTシャツとジャージのスタイルだ。しかも、こんな時間に高柳と外を出歩くのはマズイのではないか。さなえは朝のニュースはテレビで見る。その中にエンタメ情報や、芸能ニュースもあるので、芸能人の夜中のデートは熱愛報道とか言って取り沙汰されるのも知っていた。
「高柳さんが困るのでは」
 慌ててさなえが言うと、高柳が大丈夫や、と普通のトーンで言った。
「マンションから出る訳じゃあらへんから」
 話が全く見えなかったさなえだが、さっきの高柳の怒声からすると、言う通りにした方がいいのはわかった。仕方なく、部屋を出てエレベーターに乗る高柳について行く。
 エレベーターは3階で止まった。うん?1階じゃないの?さなえが不思議に思っていると、高柳はエレベーターを降りた。廊下の突き当たりの部屋の前で立ち止まり、コンコン、と二回ノックした。ドアはすぐに開き、高柳が入って行く。さなえも入るしかない。
 薄暗い照明の廊下が現れた。高柳の部屋の廊下の壁紙は薄いベージュだった。今、訪れているこの部屋の壁は黒。間接照明で明るくしてある。