斉藤くんを私の家に呼んだのは、彼の好きな漫画を貸してあげるという理由だけで、決してそこに下心はなかった。

「うわ、菅谷んちってひろっ!」

うちの庭を見ただけで、斉藤くんが目を丸くさせている。

「近所の人からは駄菓子屋御殿って呼ばれてるよ」

「なんで?」

「おじいちゃんが駄菓子屋をやってたから」

それで儲けていたかは知らないけれど、おじいちゃんの駄菓子屋はすごく繁盛(はんじょう)していた。

今は駄菓子屋を(たた)んでしまったから、お店は取り壊されてしまったけど。

「俺、駄菓子屋って行ったことないかも?」

「え、本当に?」

「生まれも育ちも都会ですから」 

「ちょっと、それって私が田舎者だって言ってます?」

「うそ、うそ。冗談デス」

真紀の浮気疑惑を通して、私たちはさらに仲よくなっていた。

元々友達だったとはいえ、こんなふうに冗談を言い合える関係ではなかったから、目に見えて彼との距離が近くなっているのを感じている。