「そんなわけ、ないよ⋯」

「どうしてそう思うの?」

「だって⋯!」

「彩乃は佳乃の事、家族だと思ってるわよ?」

「っ」

「だから佳乃の事、お姉ちゃんと呼ぶし一度だって佳乃がいなければよかったなんて言った事はないでしょう」

「⋯それは、そうだけど⋯」

「佳乃もたくさん悲しんで苦しんできたと思うけど彩乃もたくさん辛い思いをしてきたって事は分かるわよね?」


責めるわけではなく優しい声で言葉を発していくお母さんに頷く。それは、痛いほど分かり切っている事だ。


「彩乃だってまだ中学生で受け入れられない事も傷付く事もたくさんある。だけど結局、彩乃は佳乃のことを嫌いなわけじゃないの」

「⋯嫌いじゃない?」

「コンクールが終わったら一度、彩乃と話をしてみなさい。佳乃から向き合おうとすればきっと彩乃だって向き合ってくれるから」

「向き合う⋯」


復唱すれば今度はお母さんが頷いた。


「佳乃は自分の記憶の事と向き合ってきたと思うよ。だけど一度くらい、後ろめたさを無くして彩乃と話をしてみなさい。姉妹としてお互い言いたい事を言い合いなさい」


この時私にはお母さんが言いたい事があまり分からなかった。

彩乃が私を嫌ってはいないとか、そんなのすぐにそうなんだって思う事なんて出来なかった。

だけど後にこの時のお母さんの言わんとしている事が分かった時、私はまた母の偉大さを痛感するのだ。