俯いてギュッと棒を握りしめる私に、大きな影が被さった。
「それなら、何の心配もないじゃん」
「⋯拓海?」
「佳乃が不安になる事は何もないよ」
ゆっくりと私の不安を取り除く様に言葉を紡いだ拓海は、私の手にその手を重ねる。
そして包み込む様にほんの少し力を加えてから今日もキラキラした瞳で私を見つめた。
「もしかしたら分かり合えない事もあるかもしれない。たけどその時は分かり合える努力をするよ」
「分かり合える、努力?」
「うん。それで例え分かり合えなくても折り合いを見つける」
「そんな事出来るの?」
「出来る」
「どうして⋯?」
まず、私たちには記憶という障害がある。
私が幼い頃から悩まされてきた、切り離せない障害。そうじゃなくても人間同士なんだから全く同じ感情になって同じ感性を持って、なんて不可能だ。だからこれが私たちに記憶という障害がなくても分かり合えない事は出来てくる。
それなのに折り合いを見つけていく、なんて簡単に言えてしまうものなの⋯?
「言っておくけど、簡単に言ってるわけじゃないから」
「っ」
「佳乃ってたまに、心の声出てるよ」
クスリと笑った拓海の表情は柔らかくて、太陽の様な眩しい笑顔も飄々とした態度も今日だけで見てきたし冗談ぽく悪戯に笑う顔も見たけれど、この人はこういう表情もするんだって思った。
柔らかくて優しくて、愛に溢れた表情。
愛、なんて言葉を使うなんて自意識過剰かも?と思ったけれどそれ以外に表現のしようがなかった。
もしかしたら先週の私は彼のこういう表情を見ていたのかなって考えたら少し切なくて、悔しい。
先週だって今日だって来週だって、私は私なのにヤキモチを妬くなんて変だけど。



