泡沫の夢の中で、一寸先の幸せを。【完】



その日はやけに早く目が覚めた。

物音のしない静かな家は、まだ家族全員が眠っている事を示していて。

私はそっとベッドを抜け出して、薄手のカーディガンを羽織る。

夏とはいえ早朝はまだ半袖のパジャマで外に行くには少し肌寒い。それが海ともなれば尚更だ。

カーディガンを羽織った私はまだ寝ている家族を起こさない様にそっと玄関のドアを開けて、防波堤へと向かう。


夏暁の中をゆっくりと歩く時間はとても神秘的で、白んだ東の空を見ながら日の出はもうそろそろだと思った。


ほんの数分で防波堤についた私は、一人そこに佇む。

思い切り空気を吸えば、潮の香りが鼻腔を通って心にまで染みていく様で朝の海もいいものだと感じた。

朝凪が作り出す静かな時間はとても落ち着いた。


別に、何かしようとしてここへ来たわけじゃない。
ただ早く目が覚めたから思いつきで海でも見ようかなと思っただけで目的なんてなかった。

それなのに不思議だな。

とても勇気が出た。

元気が出た。

意味もなく、涙が出た。


もしかしたら海という巨大な自然は不思議な力を持っているのかもしれないし、拓海とたくさん時間を過ごしたこの場所は私のパワースポットになっているのかもしれない。

彩乃と向き合うと決めたものの、まだあと一歩勇気の出なかった私に夏の朝は勇気をくれた。


「⋯そろそろ帰らなきゃかな」


どれくらい海を眺めていたのかは分からないけどそこまで時間は経っていない様に思う。

だけど夏の空は瞬く間に色を変えていく。

白んでいた空にはたなびく東雲があり、薄藍に空が染まっていく。


今日も暑くなりそうだなぁと思いながら、私は来た道を帰った。