泡沫の夢の中で、一寸先の幸せを。【完】



「どうかした?」


翌日、拓海にそう言われてしまうくらいには私は酷い顔をしていたのだと思う。


「なんか今日の佳乃元気ないっていうか、浮かない顔してる」

「⋯そうかな?」

「何かあったの?」


隣に座る拓海は無理に聞き出そうとはしないものの、私が話したければ話してもいいよと受け入れてくれるスタンスでいてくれるから、私は拓海に昨日の事を話した。

きっと誰かに聞いてもらいたかったのだと思う。

だけどそれは聞いてもらう事に意味があるのではなく、聞いてくれる人がいる事が重要で。拓海だから話そうと思ったんだ。


妹の存在、そして私が妹のことを忘れてしまう事。傷付けたくなくてしていた事が結果的に彩乃を傷付けてしまった事。

一つ一つ思い出しながら話していけば、じゅくじゅくと負の感情が心に浸透していく感覚がして吐きそうだった。

ポタリと水の中に黒い絵の具を一滴垂らした様に、どす黒いものが広がっていく。

どこまでも、どこまでも波紋を描きながら広がっていく。


「このまま、消えちゃいたい⋯」

「佳乃⋯?」

「記憶と一緒に私の存在も消えちゃえばいいのに」


決して被害者面したいわけじゃなかった。

だけど私が悪い事を充分思い知った上で無意識のうちに口から出た言葉は紛れもない本心で。

たおやかに穏やかに揺れる海。頬を濡らす透明の雫は静寂が支配する空間でゆっくりと流れていく。


「傷付ける事しか出来ない⋯」

「⋯」

「なんで、忘れちゃうの⋯?」

「⋯」

「忘れたくないのに忘れて、思い出したくても何も思い出せなくてっ⋯、周りを不幸にしか出来なくてっ⋯」

「⋯」

「私だって忘れたくて忘れてるわけじゃないのにっ⋯」


誰かを責めているんじゃなくてただ、自分自身が嫌なだけ。許せないだけ。

こんな事を言われても拓海を困らせるだけだというのに私の涙は止まってはくれなくて、私は暫くの間ずっと、泣いていた。


時折髪の毛を攫う風が吹いて、このまま風と共にどこか遠くへ行ってしまいたいと思った。