*


「莉愛さーん」

 大きな声で莉愛を呼び、笑顔で手を振っているのは空だ。

「空ちゃん今日も元気だね」

「はい。私は元気だけが取り柄ですから」

 そう言いながら、空が自転車をこぎ出した。

 誤解が解けた次の日から空は犬崎高等学校に毎日やって来ては、莉愛と共に狼栄大学高等学校へ行くことが日課となっていた。初めこそ、莉愛と共にジョギングで向かったが、莉愛に全く追いつくことが出来ず、途中から歩いて向かうという悲しい結果となってしまい、それでは申し訳ないと、今は自転車で併走することとなったのだが……。

「はぁー。はぁー。はぁー」

 息を切らしながら自転車をこぐ空を心配しながら、莉愛は声を掛けた。

「空ちゃん大丈夫?」

「大丈夫です。私の事は気にせず、莉愛さんのペースで走って下さい。莉愛さんとの、この時間のためなら……はぁー。……は
ぁー……」

「そっ……そう……?」

 そう言われても、気になっちゃうんだけど……。

 それにしても、私との時間のためって……どういうことなんだろう?

 チラリと空の様子を気にしつつ狼栄へと向かう。

 そして狼栄に着く頃には、空はもう一歩も動けないといった様子でグッタリとしたいた。

「空ちゃん、これ飲んで」

 莉愛がペットボトルのスポドリを手渡すと、汗だくの空が息を荒げながら申し訳なさそうにそれを受け取り口にした。

「はぁー。はぁー。莉愛さんすごいですね。自転車でも追いつくのが、やっとなんて……」

「脚力には自信があるんだよね」

 汗を拭いながらフッと笑うと「うぐっ」と変な声を出した空の頬が赤く染まった。

 ?

 どうしたのかな?

 よく分からないけど、空ちゃんは可愛いなー。






 *




「莉愛、また空と一緒に来たのか?」

 声を掛けられた方へと振り返ると、大地が少し眉を寄せながら立っていた。

「うん。校門の前まで一緒に来たけど、暗くなる前に帰るように言ったから、空ちゃんは大丈夫だよ。それに家に着いたら連絡するように話したから、そろそろ連絡が来るんじゃないかな?」

「連絡先交換したんだ」

「うん。毎日かわいいスタンプが送られてくるよ」

 楽しそうに笑う莉愛を見た大地が、複雑そうな顔をした。

「もしかして、妹を取られたみたいで、嫉妬してる?」

「確かに嫉妬はしておいるが……空にだな」

「どういう意味?」

「空に莉愛を取られて嫉妬してる。俺の莉愛なのに」

 なっ……。

 大地ったら何を言い出すの。

 俺のって……。

 顔が熱い。

 自分の顔が赤くなっていることが、鏡を見なくても分かる。

「もう、大地は恥ずかしげも無く、すぐそう言うこと言うんだから」

「本当の事だし」

 莉愛の赤くなった頬を撫でながら、愛おしそうに大地が微笑んだ。甘い空気が辺りに漂い、莉愛は耐えられなくなって、話を逸らした。

「でも、空ちゃん本当に可愛いよね。本当に妹が出来たみたいで嬉しい」

 それを聞いた大地が、フッと笑った。

「将来的に空は莉愛の妹になるけどな」

 意味深な言葉に莉愛が固まった。

 それって……それって……そう言う意味だよね。

 結婚……二つの感じが頭に浮かぶ。


 ひゃーー。

 熱い……。

 更に真っ赤になった顔を、大地に見せたくなくて俯くと、大地が莉愛の顎に手を置き、顔を無理矢理上に上げさせた。

 真っ赤な顔の莉愛を見た大地が、嬉しそうに笑った。

「めちゃくちゃ可愛い。誰もいなかったらキスしてたのに」

 またそう言うことを……。

「もう、大地はからかってばかりいないで、練習開始して!」

「はい、はい」



 そんな、イチャイチャモードの二人を見つめ、狼栄の部員達は溜め息を付いた。

 うわーー。

 何なんだよ。このピンク色の空間は……。

 狼栄の部員達全員の顔から表情が抜け落ち、スンッと音が鳴った気がした。

 頼むから他でやっくれ。

 俺もかわいい彼女が欲しい。

 二人をチラチラと気にしつつ、見ないふりをしながら、練習を続けたのだった。