「ひっ、ひっ、」

 あら、足が生まれたての子鹿のようよ?
シーフちゃん?

「あ・・・・あ・・・・」

 あらあら、地べたに座り込んだりなんかして。
獣社会じゃ逃げない弱者は駆逐されちゃうわよ?
プリーストちゃん?

「は・・・・え・・・・」

 身体中震撼しているのに戸惑うなんて、野暮ったいわねえ。
ウィザード君?

「ぐっ・・・・本気、か!」

 ダーリン(仮)こと、カインが剣を構えてこちらにつっこんで来る。

「はぁ」

 これはダメダメね。
あまりのできの悪さにため息が出たわ。

 一瞬で間合いを詰める。

「なっ」

 カインが振り下ろした剣をその太刀筋の下方向にベクトルを合わせたまま上から斜めに力を加えて素手で弾く。

 そのまま魔法で自分の肉体強化と互いの重力操作でカインは軽く、自分の足部分だけ重くして空いた胴を蹴り込んで吹き飛ばし、風刃でカインの全身を薄く傷つける。

「うっ、ぐっ」

 仲間のすぐ目の前まで吹き飛んでいくつかの傷口から血が滲む。
そんな彼を見た彼の仲間は驚愕し、慌てふためく。

 今さらよ。
彼の体、あなた達のせいでとっくにボロボロじゃないの。

「「嘘?!」」
「そんな?!」

 あら、女子2人は仲良くセリフが被ったわね。

「あなた達、随分余裕なのね?」
「やめ・・・・」

 そんなのが私のダーリン(仮)とパーティーを組んでたなんて、許せない。

 パチンと指を鳴らす。

「「「ぎゃあ!!!!」」」

 今度は仲良く声が揃ったわ。
砂嵐が彼らを襲い、姿が嵐にのまれる。

「やめてくれ!
ミルティア!!」
「もう遅いわ」

 砂嵐がゆっくりと収まり、阿鼻叫喚した表情で固まる彼らと等身大の砂人形が残る。

「あ、そんな、うそ、だ・・・・」

 ゆっくりと起き上がり、私に背を向けて人形に近づくカインを嘲笑うように、サラサラと砂人形が崩れ落ちる。

「明らかに実力不足だとわかって死の森に入るからこうなるのよ。
おまけに私を殺す覚悟もなく向かってくるなんてね」
「なん、でだ・・・・こんな・・・・お前は戦意のない者を殺すような、そんな・・・・」

 裏切られたような顔もきっと素敵よね?
でも見たくはないわ。
そのまま向こうを向いていて?

 私の事を都合良くは信じてくれていたのね。
嬉しくて胸が痛むわ。
あなたと過ごしたあの時間は、きっと私達の関係が穏やかなものであるのなら・・・・意味はあったのでしょう。

 そしてあなたは結局、学ばなかったのね。

「本当に甘ちゃんねえ」

 そんなだから()()()に気づかない()()をするのよ?

「ねえ、あなたの致命的な欠点が何だかわかる?」

 思っていたよりずっと優しい声が出るわ。
それと反比例するかのように、私の心は底冷えしてしまうけれど。

「人を自分の色眼鏡で見る所よ」
「ミル、ティア」

 声が掠れているわ。
砂の魔法を使ったからかしら?
全て終わったらちゃんと喉を潤しなさいね、ダーリン(仮)(愛しい人)

「あなたの運命は過酷よ?
望んでいなくとも」
「ミルティア」

 私に背を向けたまま、名前を呼ぶ。

 そう、私に憎悪を滾らせて?

「彼らの裏切りにあなたは気づいていたのよね?
けれどそれはあなたが彼らを甘やかして強くなるチャンスを奪ったせい」

 自分を選び続けて欲しくて彼らに尽くした愚かで可愛い人。

「あなたはそれでも良いと許したの。
寂しかったから?
必要とされたかったから?
違うわ」
「ミルティア!!」

 ガッと初めて会った時のように振り向いて胸ぐらを掴まれる。

「選ばれない事が怖くなったのよ」
「違う!」
「違わない。
だからあの時あなたの血縁者達と気持ちの上だけでも縁を切れと言ったの」

 夢の中で魔竜と戦うあなた達は全員が等しくAランク冒険者だったわ。
あの程度の威圧で戦意を喪失して震えるなんて事はなかった。

 夢の魔竜の威圧には、私とは違う明確な殺意が含まれていたのだから。
皆が等しく出せるだけの力を、本来の実力以上にお互い出し合ったからこそ、たった4人で誰も欠ける事なく魔竜を討伐できた。

 それはここに来るまでに、互いを信頼して互いを研鑽し合って戦ってきたから。
もちろん、あなたも。

 間違ってもあなたがほぼ全ての戦いで絶えない生傷を負い続ける戦い方ではなかったのよ。

 そして夢の彼らはあなたの血縁者の甘言を退けたからこそ、全員が刺客に殺されたの。

 けれど・・・・ふと思い直す。

「どちらが・・・・良かったのかしらね?」
「ミルティア?」

 あぁ、きっとあなたを弱くしたのは私かもしれないわ。

 ごめんなさい、カイン。

 夢と現実のあなたの違い。

 私が関わったか、そうでないかね。

 両手で愛しいあなたの頬を包んで、驚くあなたに口づける。
癒しの魔力を乗せて。

「なっ」
「誰も殺してなんていないわ。
さようなら、カイン」

 驚くカインに笑いかけ、家族の元へ転移させる。
もちろん私の家族の元よ。

「お花ちゃん、クロちゃん」

 しばらくしてから、静かに呼びかける。

 呼べば赤と白のミニ竜達は可愛らしく飛んできて、頬をペロペロしてくれる。
いつの間にか涙が流れていたのね。

 物陰に隠れて私を見守ってくれていたの、知ってるわ。
気配を殺すのがとっても上手になったから、私以外は気づいてなかったけれど。