「やっだぁ、どんだけきゃわゆいのぉ!」

 やばい、顔面デレデレに崩壊しちゃったわ!

 だって魔竜ってば私の顔を見た瞬間、ポン、と胸で抱きしめられるくらいのミニ魔竜ちゃんになってキュイキュイ泣きついてきたんだもの。

 ホント、勝負は一瞬だったわ。
いえ、勝負にすらならなかったわね。

 もちろん私の完敗よ!

 なんてキュンキュンしながら私が誰か一目で理解した魔竜ちゃんをよしよしして、ついでに彼が蓄積した瘴気を浄化してあげたの。

 そうしたら夢で懐かし、真っ白な聖竜ちゃんに戻っちゃった。
これで私の当初の計画は、当然果たせなくなってしまったわ。

 【そうだ、魔竜をぶちのめそう】計画よ。
忘れてないでしょうね。

 浄化したら性格すっかり丸くなっちゃうし、ミニサイズの魔、じゃない、聖竜ちゃんたら、前世の死別以来ぶりだったのか甘えん坊将軍になっちゃって、寝ても覚めてもくっついてきて可愛いのなんのって。

 さすがに本来のサイズで飛びついて来た時は死の危険を感じて蹴り飛ばしてしまったのはご愛嬌よ。

 あ、呼び名もあるの。
前世の時と同じくクロちゃん。

 元魔竜で真っ黒だったからじゃないわよ。
この子コウモリみたいな翼があるんだけど、両翼の付け根あたりに四つ葉のクローバーみたいな色の抜けたような半透明風の痣があって、昔の私が名付けたの。

 こうして私と赤と白の、偶然にも環境に優しい草繋がりの名前をつけた竜達とこの森で暮らし始めたってわけ。

 そしてクロちゃんは持ち前の可愛さで、なんとお花ちゃんの心を射止めてしまったの。
今ではお花ちゃんが姉さん女房のようにクロちゃんのお世話をしてくれてるわ。

 古代竜だけあって、推定数百歳のクロちゃんよりもずっと長生きしてる・・・・はず?
お花ちゃんて実年齢は幾つなのかしら?

 鬱陶しかった瘴気は私とクロちゃんが浄化しつつ、森の外から誤って誰かが未浄化地帯に入らないように森の周辺には魔法で幻影と侵入防止の結界を常時発動させるようにしたの。

 私、魔力保持量はとんでもないので。

 というか、しょっちゅう枯渇させてたら少しずつ内包する魔力量が増えてったのよね。
修行と環境の成果だわ。

 そして半年ほど前かしら。

 瘴気の濃さも一段落したから侵入防止の結界だけは一部解除したの。
外から見れば死の森らしい幻影はそのままにしてね。

 私だってたまには街に繰り出してお酒飲んだり、美味しいお菓子食べたいんだもの。
今ではすっかり通称となった死の森を時々抜け出しては、街でストレス発散してるわ。

 最近お花ちゃんとクロちゃんが本当に番って夫婦になったせいで相手してくれなくなったからじゃないわよ?
断じて寂しくも羨ましくもないんだから!

 それに良い情報収集にもなるの。
本当よ?
クスン・・・・あ、涙が。

 そうしたら今日、その一部からダーリンと愉快な仲間達が入って来ちゃったもんだから、私の夢ってどんだけ再現性が高いのって話よね。

 まあ簡単だけどこれが私がここで悪の魔女を演じるに至るまでの経緯よ。

「それで、結局お前は何をやっている?」

 あら、ダーリン(仮)のダンディボイスで現実世界に帰宅してしまったわ。
耳元で囁かれたら間違いなく腰砕けになっちゃう素敵ボイスね。

「うーん、そう、ねえ・・・・魔竜様の下僕?」
「冗談は・・・・」
「あら、冗談じゃないわよ?
だって私、昔から可愛い小動物が大好きだもの」

 そう、私はすっかりミニサイズのクロちゃんの虜だもの!
ここを協力して浄化したのだって、あの子が可愛いからよ。

 最近じゃお花ちゃんもミニサイズ化に成功して、赤白でお尻フリフリし合ってるの。
めちゃくちゃ可愛いんだから!

「はぁ」

 あら、ダーリン(仮)てばこれ見よがしにため息なんて吐いて、どうしたのかしら?
幸せが逃げちゃうわよ?

「ねえ、アイツ頭悪いの?
魔竜を可愛い小動物扱いしてない?」

 何ですって、このシーフ。

「ええ、そう聞こえましたわ。
感性が狂ってますわね。
もしかして魔竜は魅了を使えるのでは・・・・」

 ふん、私の方が良い乳してるんだからね、お嬢様もどきプリースト。

「いえ、そんなはずはないでしょう。
むしろ彼女が魔竜を操っているのではないでしょうか。
凶悪なほどの魔力を発していますから」

 あなたが平凡過ぎるウィザードなだけじゃない。

 あなた達ひそひそ話してるけど、ちゃんと聞こえてるわよ!
そんなあなた達には殺気と威圧に魔力を乗せてお見舞いしてやるわ!

「「「ひっ」」」
「ふふん。
あなた達、恐怖に打ち震えなさいな」

 3人共短く悲鳴をあげてガタガタ震えたわ。
これがかの有名なざまあってやつね、きっと。

 あら、ダーリン(仮)はやっぱり何のそのね。
さすが私や私の家族に鍛えられただけの事はあるじゃない。

「やめろ」

 そう言って彼らを背に庇うようにして前に出て剣を構えた。

 あぁ、そんなあなたも好き。

 だけど・・・・。

「逆にあなた達は何をしにこんな所に来たのかしら?
自殺志願者?」
「俺達は国からの指名依頼により魔竜を討伐に来た。
邪魔するな、ミルティア」

 夢を覆すのは難しいものね。
これから私は・・・・あなたの未来を変えるわ。