「お前が後見人になってくれたのも俺を守る為にした事だってわかってる。
ただ惚れた女に守られるのは恥ずかしいから鍛練だけは欠かしていないし、いつかお前より強くなる」

 頬を再び赤らめて、だけどしっかり私の目を見て宣言されちゃったけど、何なの?!
私をキュン死させたいの?!
ツンデレのデレしかない、デレデレの甘々じゃない?!

 さっきから顔が熱いし、にやけるし、本当にふわふわするのだけれど!
ずっと両肩に手をホールドされてて逃げられないわ!
もしかしてミルティア至上今が人生最大のピンチじゃないかしら?!

 何のピンチかはわからないけれども!

「その、カイン、あなた、どうしちゃったの。
ずいぶんと甘い言葉を・・・・」
「ひねくれて、素直にならないばっかりに随分遠回りしたんだ。
柄じゃないのもわかってるし、恥ずかしいけどな。
でもお前のそんな顔を見られるのなら悪くない。
その、お前が照れて真っ赤になってるのが可愛い」
「ふぐっ」

 まずい、まずいわ!
他らならぬカインに言われると腰が砕けて今にもへたりこみそうよ!
うっとりした優しげなご尊顔が目の前にあるし、もはや殺傷能力の高い顔面凶器よ?!
なのに私ったら色気も何もない妙な声が勝手に出ちゃうし、窮地に陥るってこんな時に使うんじゃないの?!

「今日のこれも兄貴達に頼んだ。
せっかくの結婚式なのはわかってたけど、もうこの機会を逃したらお前と2度と会えないかもしれないだろう。
なりふり構ってなんかいられなかった。
それとお前の気持ちが俺にあってもなくても、俺はもうお前を手離したくない。
だけどあの時みたいに、あんな風に泣かしたくもない。
だから教えて欲しい。
まだこんな情けない俺を・・・・愛してくれているか?」

 真剣に、とても切なそうな顔でそう問われたら応えるしかないじゃない。

「・・・・もちろんよ、私の愛しい人。
ずっと愛してたし、愛してるし、愛させて!」

 そのままカインの首に飛びついて抱きつけば、ちゃんと抱きしめ返してくれたわ。

 嬉しい!
もうこの長い初恋を諦めなくていいのよね!
愛してもいいのよね!

 自然と涙が溢れて鼻をぐずぐずしてしまうわ。

「泣かないでくれ。
父さんと兄貴達に殺される。
俺も愛してたし、愛してる。
お前を一生愛させてくれ。
俺の愛しい人」

 少しだけ体を離したカインはそう言って口づける。

 私も目を閉じて受け入れたわ。

「「「「きゃあああああ!」」」」
「「「「やったー!」」」」
「「「「おめでとう!」」」」

 地上からどっと歓声が沸き起こり、口々にお祝いの言葉が贈られる。

 上を見上げれば皆がここをのぞきこんでいて、ずっと見られていたのを今更ながらに自覚したわ。
でも恥ずかしいのも良い思い出に変わるはずよね。

 カインと2人して顔を見合わせて、私達も笑っちゃった。

 こうしてこの辺境領の類をみない領内あげてのビッグイベントは成功したの。

 もちろん皆への金一封は私が出したわ。

 この日の為にフォーメーションを組んで何度も予行演習もしてくれたみたいだから大奮発よ。

 せっかくだからと影に収納してたクイーンキメラと狒々の下処理済みのお肉を領民の奥様方に手渡したからかしら。
結局お兄様達の結婚式はバーベキュー大会になってしまったの。

 でもあまりにも珍しいお肉に本来の今日の主役達も皆で喜んでくれたから結果オーライね。
2つの辺境地に嫁ぐのに相応しい、新婦さんとその家族で良かったわ。
それに肝が据わった美人なお義姉様達ができて私も嬉しくなっちゃった。

 クロちゃんもお花ちゃんもミニサイズで影から出てきたから領の子供達も大喜びよ。
暗くなってから余興で考えていた空に咲かせる大きな火と光の花を魔法でドドンと何発も打ち上げてあの子達も人気者になったわ。

 そして私を捕まえたカイン。
彼は当然のように私を望んでくれたから、領主のお父様に改めて問われる間もなく、喜んで私を差し出したちゃった。
もちろんこれはミルティア捕獲大作戦を企画した時から決められてた暗黙の了解(褒賞)だったみたいね。

 お父様ったら自分であんな宣言を声高々にしておいてやっぱり嫌だーって泣いちゃうんだから、相変わらずお茶目だわ。
お兄様達もさめざめしてたけれど、新妻達に慰められて微笑ましい限りよ。

 もちろん一緒に参加していた神父さんにも祝福をもらって私とカインは晴れて夫婦となったの。
電撃結婚てやつね。

 そして10年ぶりくらいに数日間生家に滞在してゆっくりと羽根をのばせたわ。
私の部屋はずっとそのままにしてくれていて、いつでも帰っておいでって言われた事がとっても嬉しくて、思わず泣いてしまったわ。

 私は籍を抜いたけれど、養子になったカインと夫婦になった事で再び娘と妹に戻れる事実が何よりも嬉しかった。
カインはそんな私を優しく見つめていたわ。

 そして再び私は旅立ったの。

「行きましょう、愛しい旦那様」
「ああ、行こう。
愛しい奥様」

 もちろん、2人で手を繋いで。

ー完ー