「愛してる、ミルティア。
本当はお前がここを突然出て行った時には自分の気持ちに気づいてたんだ。
お前を探す為に冒険者になったんだからな。
だけど・・・・ごめん。
結局俺は自分の事で余裕が無くなって、素直に想いを伝える事もできなくなってた」

 ダーリン(仮)、いえ、カインは私の目を見ながら静かに語り始めたわ。

「お前が俺をここに転移させた時、両親に宛てた手紙を忍ばせていただろう?」
「ええ」
「それを読ませてくれたんだ」
「え・・・・」

 その言葉に絶句よ、絶句。
カインに内緒にしてって書いておいたのに?!
そんな事しそうにない性格のあの両親が?!
ちょっとお父様もお母様もどういう事かしら?!
クロちゃんとお花ちゃんに頭カジカジしてもらうわよ?!

「父さん達を責めないで欲しい」

 私の心情を察したのか、カインが両親を庇う。

 あら?
父さん達?
おじさん達、じゃなく?

「ああ、そうだな。
順を追って話す」

 私の疑問や戸惑いに気づいたのね。
苦笑した彼は説明してくれたわ。

 私を意識し始めた頃から遡って。

 まさか私が前世を夢に見て自己研鑽に集中し始めた頃に意識し始めたのには驚いちゃった。

 そうね。
あの時にはカインへの想いを封印してしまっていたわね。

 それに成人を迎えたあの日にプレゼントを用意してくれていたなんて思いもよらなかったわ。
知っていたら1日くらい出発をずらしたのに。

 ちょっと残念ね。

 そして冒険者になったのは私を探す為。
剣聖と呼ばれるほど強くなったのも私に釣り合う男性になる為に必死に行動した結果だったなんて。

 あらあら?
もしかして私達、巷で流行りの両片思いってやつだったのかしら。
あまりの現実になんだかふわふわするわ。
これが夢見心地ってやつなのかしら?

 けれどやっぱり彼がお城で元王太子に謁見した下りでの、彼の戸籍上の家族や元仲間達とのやりとりには胸が痛んだわ。

 結局今ではもう1人の腹違いの次兄が当主になっているし、家としてあの件は社会的にもきちんと制裁を受けているとは言っても私的には業腹よ。
あの元仲間達も砂埃まみれじゃなくて追加で坊主にでもしてやれば良かった。

 当事者達は既に亡くなっているけれど、祖国にも彼の生家にももっと圧力かければよかったわね。
フンッ。

「それで、その・・・・父親も含めて戸籍上の家族とは縁を切って・・・・ミルティアの両親の養子に入ったんだ」

 凛々しい顔が何故だかほんのり赤くなるのも可愛い・・・・って、待って?!

「・・・・えぇ?!」

 やだ、思わずお間抜けな声が出ちゃったわ。

 内面が甘々な彼には絶対できないと思っていたのに?!
予想外の事態に一瞬理解出来なかったじゃないの!
どんな心境の変化があったっていうのよ?!

 更に詳しく話を聞いて、驚く事ばかりだわ!!

 元死の森で別れてからの5年、彼は冒険者を辞めたわけではないけれど、ひたすら私を探してくれていたらしいの。

 もちろん私が悲観していたような愛する誰か一筋だったのは確かだけれど、つまりそれは私一筋で過ごしていたって事で、え、えぇ?!
私以外の誰かとなんて考えた事もなかったですって!

 それを聞かされながらわが身を振り返れば・・・・
私ってば・・・・忘れようと努力してたのはともかく、パーティーに紛れて男性との出会いを求めてみたり、どこぞの王子様達を物色してみたり・・・・ふ、ふふふ、これは秘密にしておきましょう。
そうね、そうしましょう。

 申し訳ない気持ちはもちろんだけれど、彼の私を見る真剣だけれど陶酔したような瞳の中に、何故か危険な色も纏っている気がしてならないの。
私の中の動物的直感が嫌な予感をびんびんに告げているわ。

 それよりも、よ。

「カインは私を恨んでいないの?
たくさんお節介を焼いてしまったし、何よりあなたを深く傷つけたはずよ」
「手紙を読んで、お前がずっと俺からの見返りを求めずに色々なものを手離していたのを知った。
ずっと、もう長い間俺の為だけに行動してくれていたのを理解した時、恥ずかしくなった。
俺はずっと無い物ねだりをして、駄々をこねてたガキでしかなかったんだ。
お前を恨む気持ちもないし、そんな資格なんか最初から俺には無い」

 彼が私に抱いているかもしれない感情で、1番恐れていた事はあっけなく解消されちゃった。

 かなり痛い指摘だったのは間違いないし、だから昔は素直になれなかったけれど、あの手紙を読んで全てが吹っ切れたんですって。

 そう言われると勝手にカインに手紙を見せた両親を怒れないわね。